甘さと後悔

雅が目を覚ました時、温かさを感じた。
規則正しい呼吸が耳元に聞こえると、デイダラの肩に頭を乗せている事に気付いた。
額当てと髷をしていないデイダラは無邪気な寝顔をしていて、雅の頬が自然と緩んだ。

「……デイダラ」

無意識に、囁くように名前を呼んでいた。
デイダラが起きる様子はない。
長い金髪に触れたくなったが、彼を起こしたくはない。
そっと上半身を起こした時、身体に鋭い痛みを感じた。
呻き声を押し殺し、肩で浅く息をした。

「うーん…オイラは…強靭な…」

デイダラを起こしてしまったのかと思ったが、どうやら寝言のようだ。
身体の痛みに耐えているのを見られるのは嫌だ。
デイダラがこちらに寝返りを打とうとするのを静かに避けた雅は、忍らしく音もなくベッドから降りた。
古い掛け時計を見ると、早朝の五時前だった。
眠っているデイダラに優しい微笑みを残し、部屋を後にした。

女性用のシャワールームへ向かうと、中から鍵を閉めた。
包帯を全て取り払い、回復したチャクラで医療忍術を使った。
完全に塞いでいなかった傷口も完璧に治療し、痛みもなくなった。
傷がなくなったのを鏡で確認し、一度だけしっかりと頷いた。

「これでもう大丈夫」

昨日はデイダラに抱き締めて貰えずに、物足りなさを感じた。
自分の我儘のせいだと言うのに。

―――オイラは雅が一番大事なんだ。

そう言ってくれたのに、自分の治療を今まで後回しにしていた。
今日は時間が許す限り、デイダラと二人で過ごしたい。
ぎこちないながらもデイダラに寄り添って、その温もりに触れていたい。

皆を見に行かないと…。

雅は忍服に着替え、手早く髪を整えた。
この隠れ家で匿っている一族のリーダーは、長老の孫であるあの青年だ。
手を握られたまま離して貰えず、不審に思った。

―――君一人なら奴を…大蛇丸を倒せた。
―――あの時、僕らは祖父を殺された怒りで君の負担を考えていなかった。
―――君にあの場を任せて逃げていれば…。

一人にして欲しかったのは明白な事実だ。
しかし、雅にも自分の一族の長老を目の前で殺された過去がある。
首を跳ねられたのも同じだった。
女子供までもが大蛇丸に立ち向かうのを、雅は止められなかった。
これはサソリが言っていた通り、甘さなのだろうか。
時に、情は仇となる。
その結果が大蛇に噛み付かれた怪我と、三人の犠牲だ。

雅は考えるのをやめた。
過ぎた事を悔やんでも遅いのだ。
シャワールームから出ると、一族の怪我人が休む部屋へと向かった。



2018.5.20




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