押し殺さない感情

「よくも冷凍してくれたな」
「飲み過ぎ厳禁です」
「俺の酒の強さは知っているだろう」

雅が一度部屋を去った後、全ての徳利の中身が完全に冷凍されていて、全く溶けなかった。
イタチは雅とデイダラが部屋を出た後、それを追うように二階の部屋へと戻った。
その次に、角都は寝落ちた飛段を引きずり、二階の別の部屋に放り投げてきた。
そしてこの部屋に戻った時、雅が鬼鮫に酌をしていたのだ。
角都はそれを見た途端に機嫌を損ねた。
部屋の片隅にいるサソリは、やっと傀儡のメンテナンスに集中していた。
邪魔をすれば毒針が飛んできそうな形相だ。
お猪口を手に持った角都は、鬼鮫と話していた雅に言った。

「注げ、雅」
「程々にしてくださいよ?」

雅が冷凍の徳利を手に取った瞬間、中身は解凍された。
角都のお猪口に焼酎が丁寧に注がれていると、鬼鮫がさり気なく言った。

「雅さんのお酌だと、酒も格別に美味く感じますよ」
「本当ですか?」
「角都さんのような手厳しい忍でも、雅さんのような美しい女性にお酌をされるのは嬉しいものなんですねえ」

雅を挟んで向こう側にいる角都が目をスッと細め、不機嫌を露わにした。
マイペースな鬼鮫はそれに気付かぬフリをすると、更に話を進めた。

「それにしても、雅さんがデイダラさんと交際しているとは驚きましたよ」

雅は小首を傾げた。
そんなに驚く事でもないと思うのだが。

「デイダラさんは雅さんにベタ惚れのようですね」
「そうでしょうか…?」
「ええ、雅さんを見ている時のデイダラさんは別人のようです」

愛しい人を見る目をしている。
大切で仕方がないのだと全身で表現しているように見える。
ウザい程にベタ惚れだ、とサソリは突っ込もうかと思った。
デイダラの恋煩いは鬱陶しく、一日中雅の事ばかりを考えているのだ。

「デイダラさんのどのような所に惹かれたんです?」
「どのような所、ですか」

雅は髪を無意識に耳にかけ、考える仕草をした。
独占欲が強く、我儘で傲慢なデイダラ。
真っ直ぐに気持ちを曝け出してくれるからこそ、一途に想ってくれているのが伝わるし、愛されているのも実感出来る。
それに、デイダラは優しい。
特にその優しさを感じたのは、純潔を捧げた時だ。
雅は考えれば考える程に顔が熱くなり、深く項垂れるかのように俯いた。

「お恥ずかしいです…」
「これ以上は訊かないでおきましょう。
角都さんから触手が飛んできそうですからね」

鬼鮫は立ち上がり、長テーブルの上をざっと見た。
沢山並んでいた豪勢な料理は完食されている。
今夜は愉快な宴会もどきだった。

「それでは、私も失礼するとしましょう。
雅さん、お酌に感謝しますよ」
「いえ、ごゆっくりお休みください」

おやすみなさいと言った雅は丁寧に頭を下げ、鬼鮫を見送った。
すると、サソリが厳しく突っ込んだ。

「お前らも早く出て行け」
「私は片付けてから行きますね」

雅は気を悪くするまでもなく、食器を片付け始めた。
角都はゆっくりと立ち上がり、雅に言った。

「下の部屋で飲み直す」
「聞こえません」
「お前はまだ酒を持っているだろう」
「忘れました」

雅が風遁使いの一族から酒を譲って貰っていたのを、角都は知っている。
巻物の中に大量に封印し、持ち歩いている筈だ。
しかし、雅はしらを切った。
飲み過ぎは身体によくない。
今夜の角都はもう充分に飲んでいる。
それはテーブルにある大量の徳利や瓶を見れば分かる。

「酌をしに来いと言っている」
「お茶にされてはどうですか?」
「雅」

食器を重ねていた雅は、肩に手を置かれた。
背の高い角都を見上げると、真剣な表情が其処にあった。
小首を傾げる雅に、角都は説得するかのように言った。

「後で来い。
分かったか」
「分かりました」

雅は不器用に頭を撫でられると、照れ臭そうに微笑んだ。
角都が去った部屋に、雅とサソリだけが残った。




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