押し殺さない感情-2

雅が食器を纏める音と、サソリが傀儡にクナイを仕込む音が重なっている。
カチャカチャ、カタカタ。
不協和音ではなく、似たような音だった。

「サソリさんは傀儡をとても大切に扱っているんですね」
「俺の芸術は永久の美だからな」

長く残すものだからこそ、美しく造り上げるべきなのだ。
雅にもこの芸術を理解して欲しい。
雅はさり気なく言った。

「もし私が死んだら、サソリさんの傀儡になってもいいかもしれませんね」
「…何?」

サソリは雅を横目で見た。
食器を重ね終わった雅は、老婆を呼ぼうと腰を上げた。

「それだけ大切に扱ってくださるのなら、サソリさんとデイダラの傍で傀儡として暗躍するのも悪くないかもしれません」

サソリは殺し切った筈の感情が滲むのを感じた。
何を言っているんだ、この女は。

「お気に入りにしてくださいね。
三代目風影の次で構いませんから」
「ふざけるな。
たとえ冗談でもお前らしくないぞ」

雅はドアに向かっていた足を止め、サソリの予想外の反応に少しばかり驚いた。
軽い冗談だと解釈されると思っていたからだ。

「一族の恨みを晴らしたら、デイダラについていくんだろう。
安易に死を語ると、お前にベタ惚れのデイダラが憤慨するぞ」

サソリの口調は苛立ちを隠せていなかった。
雅が躊躇いがちに振り返ると、サソリがこちらを見つめていた。

「お前は確かに芸術そのものだ。
その顔も血継限界も、俺の芸術家としての本能を刺激する」

サソリは雅に出逢った当時、傀儡にしたいと考えていた。
その美しい顔立ちや氷遁の血継限界は芸術性に溢れている。
それが自分の手の内に入れば、芸術家として本望だと思った。
しかし、今は違う。
それは何故なのか。
感情を殺し切れていないこの身体でも分かる。

「お前は死ぬな」

雅には生きて、様々な言葉を与えて欲しい。
芸術家としての高みに繋がるような言葉を。
そして、その芸術性に溢れる顔で様々な表情を見せて欲しい。
赤黒く血塗られた過去を優しい氷で浄化するような、純白の存在として。

「生き続けろ。
分かったか」
「ありがとうございます」

雅は穏やかに微笑み、頷いた。
デイダラから愛の言葉を貰ったというのに、安易に死を語るなど、どうかしていた。
やはりイタチの命が長くないという現実に、心が苛まれているのだろうか。

「ごめんなさい、私が馬鹿でした」
「次に言ったらどうしてやろうか」
「傀儡にしますか?」

サソリは返答に困った。
雅が死んだ時の事など考えたくもないし、頭から振り払った。

「冗談です。
婆様を呼んできますね」

雅はサソリに丁寧に頭を下げ、部屋を後にした。
部屋に一人残ったサソリは呟いた。

「馬鹿だな…あいつは」

日付を跨ぐ前日の朝、雅は泣き腫らした顔をしていた。
何かあったのだろう。
イタチと二人きりで何か話したらしいが、その内容も気になる。
それをデイダラにさえ話していないらしい。
雅は何か問題を抱えている。
それはきっと、雅に死を語らせるような何かだ。

サソリは自分が角都化しているのを感じた。
雅が可愛らしくて、失いたくない。
自分自身を傀儡にしたというのに、このような感情を覚えるとは。
デイダラが聞けばひっくり返るかもしれない。
サソリは一人で口角を上げると、再び傀儡と向き合った。



2018.8.28




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