宴会もどき

デイダラは嘆いていた。
一体何なんだ、この状況は。

「何でこうなるんだよ…うん!」

雅が頼りにしているあの老婆の宿にやってきたのは、総勢七名のS級犯罪者だ。
三階でサソリが一人で陣取った部屋に、全員が集合していた。
四人用のテーブルを二つくっ付けている。
老婆とその手伝いをする雅が運んだ豪勢な料理を、サソリを除くメンバーが箸でつついている。
一方のサソリはヒルコから出て傀儡をつついている。
この宿の階段は狭く、本体でないと通れない。
暁の中で最も新入りの飛段は、初めてサソリの本体を見て、とても驚いていた。

やけくそになったデイダラは、白米を箸でかき込んだ。
今夜は雅との甘い夜を期待していたというのに、これだけのメンバーが同じ宿にいるとは。
全員が浴衣姿で日々の疲労を回復させるべく、羽を伸ばしている。
既に深夜0時を回っているが、この宴会状態はまだまだ続きそうだ。
デイダラの隣で、雅は微笑んだ。

「たまにはいいじゃないですか。
ね、角都さん」
「知らん」

雅は徳利を持ち、角都に酌をした。
今夜の角都は酒がどんどん進んでいるが、酔っているか否か、見た目からは全く分からない。
飛段が雅を大声で呼んだ。

「雅ちゃーん!
こっちにもくれよー!」
「今行きますよ」

デイダラは腰を上げた雅を見送った。
そして別の徳利を引っ掴み、そのまま一気飲みした。
アルコール度数の高い麦焼酎が喉にヒリヒリした。

「デイダラさん、まだ十九では?」
「関係ねーぞ、鬼鮫の旦那!
今夜はオイラも飲む!」

デイダラの向かいの席に座っていたのは、刺身を食べている鬼鮫だ。
鮫に似た顔がほんのり赤くなり、酒が回っているように見える。
そしてその隣にいるのは、浴衣がやたらと似合う男、イタチだ。
イタチは悩んだ末に、お猪口に手を伸ばそうとした。
しかし、その手首は隣にしゃがんだ雅にやんわりと掴まれた。

「駄目です」
「久しく飲んでいない」
「駄目なものは駄目です」

雅とイタチは黙ったままじっと見つめ合った。
イタチの目は雅から催促され、この宿に入った時から写輪眼ではない。
鬼鮫は雅をじっと見つめるイタチに言った。

「イタチさん、最近お疲れでしょう。
お身体に障りますよ」
「……」

イタチは諦めたらしく、浅く息を吐いた。
満足した雅はイタチからそっと手を離したが、背後から抱き着いてこようとする気配をすいっと避けた。
予想通り、酒癖の悪い不死身の男がそこにいた。

「雅ちゃん避けるなよォ…。
今夜は無礼講だぜェェ?」
「また酔っていますね?」

完全に出来上がっている飛段は、呑気にしゃっくりをしている。
これはもうすぐ充電切れして寝落ちそうだ。
部屋の隅から不満そうな声がした。

「チッ、メンテナンスに集中出来ねえ…。
何が楽しくて俺の部屋に…」
「私は楽しいですよ」
「俺は楽しくねえんだよ。
お前がコイツらを連れてきたからだろうが」

雅は肩を竦めながら、軽く笑った。
反省しているようには見えない。
溜息をついたサソリは、デイダラを横目で見ながら雅に言った。

「お前はあれの相手をしろ」
「あれとは?」

雅がサソリの視線の先を追うと、デイダラが角都に負けじと飲んでいるではないか。
雅は途端に眉を潜めると、デイダラの隣に戻った。
デイダラの前には小さな徳利が幾つも置かれている。

「デイダラ」
「…うん?」
「どれだけ飲んだんですか?」
「…分かんねえ」

雅はデイダラが手に持っていた徳利を取り上げ、長テーブルに置いた。
ほんのりと頬が赤いデイダラは、少し酔ってはいたが、飛段程ではなかった。
元から酒癖が悪い方ではない。
酒に強くはないが、弱くもない。
それに酒の席では失敗したくないと思っていた。
何より、雅がいるのだから。
角都が雅の背中に言った。

「雅、酌をしろ」
「角都さんも飲み過ぎはいけませんよ。
明日にはここを出る予定でしょう?」

デイダラは気持ちが落ち込んだ。
角都と飛段は明日換金所へ向かうらしいが、明日からデイダラにも任務が入るかもしれない。
雅とまた離れなければならないかもしれない。
この三日間、雅を独り占めしていただけに、寂しさは倍増する。
ゲハハハと豪快に笑っている飛段の声が遠く聞こえた。
雅は角都に酌をすると、項垂れているデイダラに言った。

「もう寝ますか?」
「そうだな…部屋に戻って寝る」

雅はやけに大人しいデイダラと一緒に立ち上がった。

「私はこちらに戻りますけど、構いませんか?」
「うん、いいぞ」

デイダラの後について部屋を出る前に、雅は角都が手に取ろうとした徳利を一瞥した。
角都は手を伸ばしたまま、とりあえず静止した。

「すぐ戻ります」

雅とデイダラの二人が部屋を出ると、角都は徳利を手に取った。
自分のお猪口に焼酎を注ごうとすると、出てくる筈の中身が出なかった。
不審に思った角都がその中を覗くと、完全に冷凍されていた。
してやられた。
角都は無言で徳利をテーブルに置き、雅が戻るのを大人しく待つ事にした。





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