雪女のゲンコツ

雅とデイダラが角都たちの待つ場所へ到着した際、サソリは不満を口にしようかと思った。
遅いぞ、幾ら待たせる気だ。
俺は待つのが嫌いだって言っただろうが。
そう言おうとしたのに、思い留まった。
雅が泣き腫らした顔をしていたからだ。
そんな顔ですら芸術的だと思うのは、雅が相手だからこそだ。

「ごめんなさい。
お待たせしました」

雅は深々と頭を下げた。
デイダラは雅の隣で申し訳なさそうに後頭部を掻いた。
次の瞬間には、角都から強烈な殺気がした。

「デイダラ…貴様…」
「ま、待ってくれ!
触手パンチは勘弁だ!うん!」

デイダラが助けを求めるかのように雅の顔を見た。
雅はデイダラの顔を見たが、微笑むだけだった。

「雅ちゃん、どうしたってんだ?!」
「飛段さん」

普段なら雅に抱き着こうとする飛段だが、その場に留まっている。
下手に動けば、酷く殺気立つ角都から触手パンチで腹をえぐられそうだと思ったからだ。

「デイダラのヤローに泣かされたのか?!」
「えっと…違うような、違わないような」
「何言ってんだ!うん!」
「だってそうでしょう?」

雅はデイダラを覗き込むかのように小首を傾げた。
あんな台詞を言ってくれるなんて、思ってもいなかった。
幸福感の余韻で頬が緩んでしまう。
鬼鮫が愛刀を肩に担ぎながら言った。

「賑やかですねえ。
こんな風に皆さんと集まるのは久し振りです」

その台詞に、雅は頷いた。
ふとイタチと視線が合った。
その顔色はチャクラを流す前よりも良くなっている。
雅のチャクラが効いているのだ。
イタチの顔を見ると、やはり哀しさが押し寄せた。
幸福感と哀しみが入り混じり、混乱しそうになる。

「確かにこんなに集まるのは珍しいな、うん」

デイダラは周りを見渡した。
まずは自分とサソリの芸術コンビ。
時々顔を合わせる角都と飛段の不死コンビ。
随分と久方振りに逢ったイタチと鬼鮫のデコボココンビ。
そして、暁に加担する雅。
総勢七名だ。
因みに鬼鮫の足元には事切れた賞金首が転がっている。

「角都さん」

殺気立っていた角都は、雅に名を呼ばれて拳の力を抜いた。
雅はデイダラの隣から移動し、角都の前に立った。
ウエストバッグから二本の巻物を取り出し、手渡した。

「今回は二人です」
「すまんが、情報量は少ない。
お前のターゲットも数少なくなった。
情報収集はなかなか難しいものがある」
「ご迷惑をおかけします」

雅は角都から小さな紙を受け取り、角都らしい字を見つめた。
これで次のターゲットの居場所の目星がついた。
角都が雅の顔を見つめながら口を開いた。

「それで?」

雅は紙から顔を上げ、背丈のある角都の目を見た。
巻物を黒装束の下にしまった角都は、雅に手を伸ばした。
雅のこんな顔を見るのは初めてだ。

「何があった?」
「……」

此処にいるメンバーの中でイタチの病気を知っているのは、鬼鮫と雅だけだ。
その病状が悪化の一途を辿り続け、薬で延命しなければならない。
そんな事は、角都にも話せない。
泣いた原因はもう一つ。
デイダラからの「愛してる」という言葉だ。
雅は哀しげな表情をしたかと思うと、次には頬を赤らめた。

「あ…えっと…」
「角都の旦那!」

デイダラが雅の背後からその肩に片腕を回し、自分にグイッと引き寄せた。
雅は目をぱちぱちと瞬かせた。
角都はデイダラを物静かに睨んだ。

「雅はオイラにだって話してくれねーんだぞ。
旦那に話せる訳ねーだろ、うん」
「邪魔をするな、殺すぞ」

デイダラは両腕で雅を抱き込み、ますます離そうとしない。
雅は皆からの視線を感じて困惑した。

「デイダラ、離してください。
皆さんが見ていますから」
「嫌だ、うん。
さっさと帰ろうぜ」
「帰るって何処にですか。
折角皆さんとお逢い出来たんですから、私はまだ話したいんです」
「先にオイラと話そうぜ、うん」

デイダラの独占欲と我儘が雅をますます困惑させた。
鬼鮫がやれやれと笑い、サソリは深々と溜息をついた。
角都と飛段が殺気立ち、イタチはどうしたものかと頭を悩ませた。
デイダラは雅の手を掴んで引っ張り、皆から見えない巨木の裏に連れ込んだ。

「もう、デイダラ…!」
「うん?」
「うんじゃなくて…。
ちょっと、何するんですか…!」

二人は何をしているのだろうか。
五人の位置からは見えないが、色々と変に想像してしまう。
あの別嬪雪女雅が、粘土大好きデイダラに何をされているのかを。

「っ、デイダラ…駄目…!」

雅の嫌そうな声が甘く聞こえてしまうのは、変に想像してしまうからだ。
角都は腕を構え、デイダラを引っ掴む準備をした。
いざ触手パンチ、という時。

「駄目って言ってるでしょ!」

ゴチンという痛そうな音とデイダラの呻き声が聞こえた。
雅が木の裏から拗ねた顔をして現れ、その後をデイダラが続いた。
デイダラはゲンコツされた頭を摩っていた。

「痛えぞ…マジで」
「馬鹿」
「覚えてろよ…うん」

今夜は寝かさない。
散々喘がせてやる。
デイダラは一人で口角を上げた。



2018.8.26




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