帰りのバス

バスの最後部座席に四人で座って5分もすれば、愛はまた眠ってしまった。
ミックスダブルスの練習時間は3時間だった。
まだ昼過ぎだが、愛は大人しく帰宅の途に就いている。
俺は愛に肩を貸しながら、愛を挟んで向こう側にいる二人に話し掛けた。

「練習になったか?」

「はい、とても!

手塚さんも愛ちゃんも本当にありがとうございました。」

竜崎さんは時々打球を返していた。
しかし、殆ど拾ったのは越前だった。

「手塚部長と不二愛の二人を相手にするなんて、滅多にない機会っスから。」

越前は随分と憔悴している。
2対1のような試合だった。
ポイント制ではなく、サーブを四人で交代しながら打ち合った。
愛は終始楽しそうにしていた。
寝不足が響き、現在は俺に身体をくっ付けて寝息を立てている。
無垢な寝顔が可愛らしい。

「間違っても二人で大会にエントリーとかは――」

「それはない。」

越前は余程あの優勝賞品のゲーム機が欲しいようだ。
自分を振った愛に頼み込む程に。

「愛に練習相手を頼んだのは何故だ?」

「その人テニス上手いじゃん。」

それは間違いないが、越前はまだ愛に好意があるのかと勘繰ってしまう。
そんな俺の勘繰りに気付かないまま、越前は続けて言った。

「部長と息合ってたし、二人で組んでもいいと思うけど。

グランドスラム出るとか?」

考えていたサインも上手くいった。
愛は考案したばかりのサインをしっかりと記憶していた。
愛がその気になれば、ミックスダブルスで国内大会に参加してみるのも悪くない。
越前は次の駅がアナウンスされると、停車ボタンを押した。

「俺、次なんで。」

「あ、私も降ります。」

街中の停車駅に到着すると、二人は立ち上がった。
竜崎さんは律儀に頭を下げた。

「愛ちゃんに宜しく伝えて下さい。」

「分かった。」

越前は眠っている愛を一瞥してから、普段通り素っ気なく言った。

「お疲れっス。」

「二人共、ご苦労だった。」

二人はバスから降りた。
愛は未だに眠っている。
今日は午後から休んでくれるようで良かった。
しっかりと見守っているつもりではいるが、愛はすぐに無理をする。
今は期末テストを控え、勉強にも非常に熱心だ。
俺は愛の手をそっと握った。
愛が一人で突っ走らないように、何時も手を握っておこう。
孤独を感じさせない為にも。
一度は離されそうになった手を、もう二度と離すつもりはない。



2017.9.16




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