自動球出し機とプライド-2

自動球出し機のウォーミングアップを終え、やっと練習試合が始まった。
あたしがサーブ、越前君がレシーバーだ。
桜乃ちゃんが物凄く緊張しているのが分かる。

『桜乃ちゃん、大丈夫だよ。

本気出さないから。』

本気は出したくても出せない。
体調が完全に安定し、完治と言われるまで極みシリーズは封印する。
越前君が不満そうに言った。

「本気出せないの?」

『うん、ごめん。』

「つまんないんだけど。」

つまんない?
その台詞であたしの中に火が点いた。
ベースラインでテニスボールをバウンドさせるルーティンを取るあたしに、スイッチが入った。

『その台詞。』

国光があたしに振り返った気がした。
それを気に留めず、越前君に好戦的に微笑んだ。

『後悔させてあげる。』

つまらないなんて、言わせないよ。
あたしはボールを投げ上げるのではなく、肩の高さから手首にスナップをきかせ、斜めに回転させながら落下させた。
下からラケットを振り、完全に打ち抜くタイミングで僅かにラケットを傾け、回転をずらした。
越前君が目を見開き、ラケットを振り被った時。
コートの表面で擦れたボールは膝下までしか跳ね上がらず、更には消えた。
越前君はラケットを振れなかった。

「…!」

何故かネット際に現れたボールに、あたしは微笑んだ。
意表を突かれた越前君は好戦的に微笑んだ。

「アンダーサーブ、か。

不二先輩も似たようなサーブ使ってた。」

別名バニッシングカット。
所謂、消えるサーブだ。
国光はあたしと越前君のやり取りを静かに聞いている。
桜乃ちゃんは完全に口が半開きで、身動き一つ取っていない。
越前君は静かにステップを踏み始めた。
以前に試合し損ねた時も見た、スプリットステップだ。

『まだつまらない?』

「…撤回する。」

『それは良かったです。』

越前君の闘志を引き出せた。
つまらないなんて言わせない。
あたしのプライドだ。
それに、このテニスコートを借りてまで練習しているんだから、とことんやる気出して貰わないとね。



2017.9.16




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