解決

デボンコーポレーションの屋上に予定していた全員が集合し、ダイゴの書斎に無事戻った。
テーブルの上で無線機や小型カメラを全て回収出来ているかを確認し終えた頃には、シャッターの隙間から僅かに太陽光が漏れ始めていた。
ポケモンたちはやっと訪れた早朝の平穏な時間に寛いでいる。
ダイゴは元の正装に着替えていたし、シルバーもマントをリュックに片付けた。

「本当にありがとうございました。」

「僕の方こそ、協力出来てよかったよ。」

二人はソファーに腰を下ろし、ダイゴが用意した紅茶で一息ついていた。
シルバーの隣では、今にも寝落ちそうなオーダイルとゲンガーが首をかくんかくんと揺らしている。
ジバコイルは浮遊したまま器用に眠っていて、クロバットとマニューラは二匹仲良く三人掛けのソファーを陣取って眠っている。
ラティオスとメタグロスはエスパータイプ同士で何やら雑談している。
張り詰めた緊張感から解放されたポケモンたちを見て、ダイゴは和んだ。

「全て予定通りに進んだね。」

シルバーは頷いた。
ついにオーダイルが力尽き、ソファーの背凭れに頭を預けて眠ってしまった。
それを見たシルバーはふっと笑い、ティーカップを手に取った。
一連の計画は、ダイゴがいなければ成し得なかった。
あれ程まで警戒していたダイゴに、こんな風に助けられるとは。

「シラヌイは今回の講演会で支援者を集って、資金集めをしようとしていたようだね。」

ダイゴはシルバーが持ち帰った資料を手に取りながら言った。
これはシラヌイの講演内容に関する資料だ。
シラヌイは自ら開発したコンピュータソフトでウイルスの作成工程をシミュレーションしていた。
それを実践する為には莫大な費用が必要となる。
当然ながら、シラヌイは開発しているウイルスに関して講演会で話すつもりはなかった。
何か適当な理由をつけて、支援者を集うつもりだったのだろう。

「長年の野望も、一晩で散ったね。」

長年に渡って積み上げた知識が、小夜の記憶削除という能力によって一瞬で消えた。
実に皮肉だ。
シルバーはふっと口角を上げ、独り言のように呟いた。

「…当然の報いだ。」

ダイゴは資料をテーブルに置き、シルバーの目を見た。
遠い目をしながら紅茶を啜る様子は、やはり実年齢よりも大人に見える。

「君はロケット団が嫌いなのかな。」

シルバーはティーカップを静かに置いた。
思ったよりも反応しなかったのは、無表情が得意な小夜に感化されたからかもしれない。
もしくは、ロケット団に対する嫌悪など必然且つ当然だからかもしれない。

「ただ嫌いなだけじゃなくて、憎んでいるようにも見える。」

「何故そう思いますか?」

「君の目を見ていたら、そう思ったんだ。」

ラティオスがメタグロスとの雑談を中断し、シルバーの顔色を窺った。
シルバーはその視線に気付き、その目を見つめ返した。
ダイゴは主人を見つめるラティオスを見て、ラティオスが何か知っているのだと気付いた。


―――ダイゴさんなら受け入れてくれるよ、シルバーの事も。


ダイゴはシルバーが重大な秘密を抱えているのを察していた。
それをシラヌイに関連する何かだと思っていたが、違う。
シラヌイを取り巻くロケット団に関連するものだ。

「すまない、如何しても気になってね。

昨日言った通り、答えたくない質問には答えなくても構わないよ。」

シルバーは僅かに口角を上げながら、首を横に振った。

「小夜も言っていましたが、時期が来たら話そうと思います。」

「つまり、小夜ちゃんと関係があるんだね。」

シルバーは頷いた。
不意にラティオスが首を横に振っているのが見えた。
これ以上は話す必要はない、と主張しているのだ。
視野の片隅でその様子を見たダイゴは、探究心の強い自分を心の中で非難した。
今は余計な首を突っ込むのは良くない。
とりあえず、話題を変えようと思った。

「シラヌイの研究は抹消したけど、これで完全に止められたのかな。」

敢えて話題を変えたダイゴに、シルバーは感謝しつつ、静かに目を瞬かせた。
ダイゴは続けて言った。

「もし他にシラヌイの研究を知る人間がいたら、奴の計画は奴がいなくても止まらなくなる。」

「それはないと思います。」

「如何してそう言い切れるんだい?」

シルバーはあのホテルで見たばかりの映像の話をした。
ディアルガがシルバーを見つめて、頷いたのだ。
ダイゴは腕を組み、納得したように頷いた。

「なるほど。

ディアルガがそう伝えてきたのなら、問題はないね。」

ダイゴは改めて達成感を覚えたし、シルバーに協力出来て良かったと思えた。
それでも、シルバーは慎重だ。

「念の為に、後で市民ホールの様子をゲンガーに見に行かせます。」

「そうだね、頼むよ。」

講演会に参加する人間は、小夜の記憶削除によって講演会の存在を忘れてしまっている。
シラヌイが襲撃されたのが知られると、警察も動くかもしれないが、それを簡単に鎮静化する方法がある。
小夜の記憶削除だ。
だがシラヌイがロケット団員である以上は、ロケット団も事を大きくしたくない筈だ。
自然と鎮静化に向かうと思っていい。

「それまで休憩にしよう。

けど先に、君に一つ頼みがある。」

「何でしょうか。」

ダイゴの視線が揺るぎなく真っ直ぐで、シルバーは警戒してしまった。
その視線は次にラティオスを捉え、ラティオスも同じく身構えた。
ダイゴは真剣一色の声で言った。

「僕は石が好きなんだ、マニアなんだ。」

シルバーは眉を潜めそうになるのを堪えたし、ラティオスは目をぱちぱちさせた。
一体何の話だろうか。
ダイゴの目がマニア色になっている。

「そこで、ラティオスナイトの話を聴きたい。」

身を乗り出したダイゴに、シルバーは少しばかり呆気に取られながら頷いた。
何時、何処で、どんな風に手に入れたのか。
世俗的には知られていないメガラティオスの存在に、如何やって気付いたのか。
あれこれ事細かく尋ねられた。
真剣に思い出しながら話したシルバーは睡眠不足の割に眠くならなかったし、当時を思い出して懐かしくなったラティオスも感傷に浸った。
気付けば、午前九時を回っていた。




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