如何して

夕食や入浴を終え、就寝前。
小夜とシルバーの二人は小夜の部屋にいた。
ポケモンたちが其々リラックスしている中、二人はソファーに隣同士で座っている。
この三ヶ月弱、何方かの部屋でポケモンたちも一緒に寝るのが定着している。
シルバーは午前中にウツギ博士と話した内容を小夜に打ち明けられずにいた。
何日間世話になるかも決まっていないし、先ず明後日に旅立つ事すら打ち明けていないのだ。

「小夜、ちょっと来い。」

『え?』

小夜はシルバーに片手を取られ、紫水晶のような瞳を瞬かせた。
首を傾げるポケモンたちに何も言わないまま、二人は部屋を出た。

『何処へ行くの?』

「談話室。」

小夜は頬を赤らめた。
夜の談話室といえば、肌を重ねる時間を思い出すからだ。
手を引かれながら無言で階段を降りる。
シルバーが別行動を決意し、その日は近い。
小夜は随分と前からそれに気付いていた。
心の気配に敏感な小夜は、相手が考え込んだり思い悩んだりすれば簡単に気付いてしまう。
此処数日のシルバーは小夜との別行動が近付くにつれて悲観的になっている。
だからこそ、シルバーは今の内にしか出来ない事をしたかった。
談話室の扉の前で立ち止まり、小夜に振り返った。

「小夜。」

『な、に?』

「抱きたい。」

小夜は瞳を見開き、更に頬を赤くした。
その頬に手を優しく添えられ、胸の高鳴りが止まらない。

『今日はボーマンダとバトルをする日じゃないよ…?』

「知ってる。」

シルバーは小夜の後頭部に手を回し、ゆっくりと引き寄せた。
唇同士が重なりそうになる寸前で、シルバーがそっと口を開いた。

「もしいいなら……お前からキスしてくれ。」

小夜はシルバーを間近で見つめ、その肩に手を置いた。
そして春よりも身長が伸びたシルバーに自分から口付けた。

『いいよ。』

いいに決まってるでしょう?
小夜がそう付け足すと、シルバーは穏やかに微笑んだ。
同時に吸い寄せられるように唇を重ね、何度も角度を変える口付けが始まった。
シルバーは小夜を片手で抱き寄せながら、ドアノブに手を伸ばした。
首元にぎゅうっと腕を回してくる小夜の抱擁で動き辛い。

『ん…駄目、離さない、で…。』

無事に談話室の扉が開いた。
電気の点いていない部屋にもつれ込むようにして入ると、シルバーは小夜を抱き寄せていた手で扉を閉めた。
陶酔する小夜の背を扉に押し付け、貪るように口付け続ける。
小夜の耳にシルバーが静かに鍵をかける音がした。
唇が離れると、長い口付けで小夜の吐息が熱くなっていた。

「部屋が暗いな。」

『電気は点けないで…恥ずかしいから。』

「なら点けるか。」

『やだ、意地悪。』

シルバーは喉で笑うと、小夜の首筋に口付けた。
軽く吸い付くと、小夜の肩が小さく跳ねる。
せめて就寝灯にしなければ、小夜の顔が見えない。
視力が人間を超える小夜だけが此方の顔を見られるというのは不公平だ。
小夜の首筋に顔を埋め、その華奢な身体をきつく抱き締めた。

「小夜。」

『ん…、如何したの?』

小夜はじっと抱き締めてくるシルバーの赤髪を撫でた。
シルバーから寂しさや切なさを感じる。

「少しだけ…このままで。」

小夜は胸が熱くなり、静かに頷いた。
強く抱き合う事で、心の隙間さえ埋めてしまいたい。
シルバーの優しい匂い、温もり、力強く抱き締めてくれる腕。
しっかりと覚えておこう。
離ればなれの間、鮮明に思い出せるように。





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