如何して-2
恐怖と不安に心を蝕まれながらも、予知夢を見ようと努めていた。
情報が欲しかった筈だった。
それなのに……如何して?
此処は何処だろう、と以前は思った。
でも、私は此処に覚えがあった。
拡散反射して部分的にしか見えなかった光景が、今は鮮明に見える。
色、音、感覚が明瞭な光景として私に突き付けられる。
目の前にいるのは、やっぱりあのロケット団員の男。
エメラルドのように鮮やかな緑色の髪をした男は、私の右手に首を締め付けられ、両脚が地に着いていない。
私の右手首を掴んで抵抗を試みているけど、意味をなさない。
私は左手に持つ鋭利なナイフを構えた。
やめなきゃ。
やめて私、お願い。
自分の身体の筈なのに、制御出来ない。
絶望に染まっている男の顔色は真っ青で、死に直面している人間の顔をしていた。
右側の光景には地面を赤く染める血の海があった。
直径二mはある円形の血の海は、ロケット団の物らしきヘリのハッチから流れ落ちていた。
私は直感で悟った。
あれはポケモンの血だ。
私が持つナイフには血液が付着していないから、あの血の海は私の手による物じゃない。
―――小夜、よせ!!!
嗚呼、シルバーの叫び声だ。
シルバーが何処にいるのか、すぐに分かった。
私が男に向かってナイフを振り上げた。
―――思い知れ。
私の背後から地を踏み締めて走ってくる音がした。
それが誰の脚音なのか、今なら振り返らなくても分かる。
シルバーだ。
邪魔をする人間は排除する。
私の中の冷たい誰かが、そう言っている。
―――小夜…!!
名前を呼んだシルバーに左手を掴まれた。
でも私は振り向きざまに躊躇なくナイフを振り下ろした。
真っ赤な血飛沫が飛び散ったのは、シルバーの胸からだった―――
『……っ嫌あああ!!』
―――バリーン!!!
早朝、シルバーの部屋。
独り目が覚めた瞬間、部屋に置いてあった全身鏡が小夜のサイコパワーで粉々に割れた。
小夜は震える身体を両腕で抱き、動悸が止まらない。
荒い呼吸と嫌な汗が心を余計に混乱させる。
シルバーが鏡の割れる音を聴きつけ、部屋に飛び込んできた。
「小夜?!」
『っ…!』
シルバーの顔を見た瞬間、小夜は怯えた瞳をした。
あの血飛沫はシルバーの血だった。
「小夜、まさか予知夢を?」
『来ないで…!』
小夜を落ち着かせようとするシルバーが手を伸ばし、小夜に触れようとした。
だがその腕は振り払われてしまう。
シルバーは眉を寄せ、涙を零す小夜を見つめた。
「小夜…?」
『シルバー。』
情報が欲しかった筈だったのに、如何して?
予知夢なんて見なければよかった。
予知夢を見る能力なんてなければよかった。
もうシルバーの傍にいては駄目だ。
『別れよう。』
2017.3.17
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