映像

その遺跡は相変わらず霧に覆われていて、視界が悪い。
時間帯が早朝というのもあり、余計に薄暗く感じた。
前日に大掃除された其処は閑散としながらも、何処か壮観な雰囲気を漂わせている。
空気が薄く、野生のポケモンの姿もない。
槍のような柱が規則正しく並んでいるだけだ。
シルバーとそのポケモンたちは其処にいた。
空を見上げたシルバーだが、深い霧のせいで空の色は分かりそうにない。

「――ディアルガ。」

シンオウ地方の神話に登場する伝説のポケモンの名を呟いた。
そのポケモンは時を司るという能力で、シルバーを過去に送ったのだろうか。
シルバーは目を閉じ、緩く握った右手の拳を左胸に当てた。
まるで祈りを捧げているような主人を見て、ポケモンたちも真似をした。
其々が目を閉じたり、お辞儀をするように頭を下げたりした。

シルバーはこの遺跡に祀られているであろうポケモンから重要な役割が与えられているのを確信していた。
小夜は既にこの話を知った。
シルバーがホウエン地方のカナズミシティに赴く事も、シラヌイという男に接触を試みようとしている事も。
シルバーはゆっくりと目を開けた。

「行くぜ。」

ポケモンたちは静かに頷いた。
シルバーが腰のモンスターボールに手を遣ったその時、シルバーの脳裏に見た事もない神秘的な映像が浮かんだ。
宇宙のように深い色をした空間に、細かい粒子が一方向に流れたり歪んだりしながら白く煌めいている。
まるで時空を思わせる空間だった。
其処に一体のポケモンがいた。
神々しい藍色の身体、鋼を思わせる装甲、胸元には宝石に似たコアがある。
シルバーは同じ赤色をした双眼と視線が合った。
それに吸い込まれるようにして映像が入れ替わり、本来の景色に戻った。
シルバーは瞬間的な映像に圧倒され、よろめいた。

「……っ!」

“御主人…!”

前のめりに転倒しそうになったシルバーを、隣にいたオーダイルが反射的に支えた。
シルバーは片手で頭を抱え、目を固く瞑っていた。
ポケモンたちの心配そうな声が聞こえ、目を開けた。

「…大丈夫だ。」

今のは幻覚ではない。
余りにも現実性のある映像だった。

「オーダイル、助かった。」

オーダイルの腕に支えられていたシルバーは自力で立った。
身体的には問題なさそうだ。
心配性のジバコイルが不安そうに尋ねた。

“如何かしたの…?”

「不思議な映像を見た。

多分…あれはディアルガだ。」

シルバーにとってメッセージ性のある映像だった。
ただ視線が合っただけだったが、ディアルガから強い意志を感じた。
この映像は昨日からの非現実的な出来事の裏付けとなった。
小夜やオーキド博士が推測した通り、ディアルガがシルバーを過去に送ったのは間違いなさそうだ。

今の映像の内容はカナズミシティに到着してから小夜とオーキド博士に話そうと思った。
たった今からホウエン地方のカナズミシティへ移動するのだ。
メガラティオスで高速飛行する予定だ。
昼までには到着する、とオーキド博士からダイゴに知らせて貰ってある。

「あのシラヌイとかいう野郎が何を企んでいるのか知らないが、絶対に一泡吹かせるぞ。」

おー!と意気投合して言ったポケモンたちを見ると、此処を大掃除する前の自分たちを思い出す。
何だか全てが上手く行くような気がしてきた。
今日此処へ来る前、シルバーは本当にカナズミシティへ向かっていいものかと疑問に思っていた。
シラヌイの生物兵器に関して見過ごせないとはいえ、ロケット団員である博士に自分から接触していいものだろうか、と。
だがディアルガに後押しされた気がした。
そして、シルバーを支えている言葉がある。


―――君は自分を信じて下さい。

自分が正しいと思った道を進んで下さい。

君ならきっと間違えません――


過去から現在への帰り際に、亡き彼がくれた言葉。
それがシルバーの心強い味方となり、背中を押してくれた。
シルバーの目に闘志が宿り、ポケモンたちも改めて気合いを入れた。





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