言葉の矛盾-2
小夜との通話後、シルバーはフレンドリーショップでパンや弁当などの食料を調達した。
宿泊部屋でポケモンたちに餌をやり、自分も惣菜パンを頬張った。
部屋の窓から外を覗けば、煌めく星々や広大な海が見える。
遠くに小さく見えるのはうずまき島という島で、海の神と呼ばれる伝説のポケモンが住むと伝えられている。
嘗ての自分は伝説のポケモンと聴けば、捕獲して手持ちにしたいと思っていたが、今はちっともそう思わない。
それは自分が今の手持ちポケモンたちに満足しているからだ。
「!」
左手首のポケナビがピピッと着信音を発した。
カラーの画面を確認すると、オーキド博士の文字があった。
夕食中のポケモンたちに顔を見つめられ、シルバーは言った。
「オーキド博士からだ。」
小夜と通話を終えてから、そう時間は経過していない。
シルバーは惣菜パンの最後の一口を飲み込んだ。
オーキド博士から何の話だろうかと疑問に思いながら、応答した。
「はい、シルバーです。」
《やあ、シルバー君。》
シルバーはテーブルの向かい側の席に座るオーダイルから心配そうな眼差しを受けた。
他のポケモンたちもシルバーを心配している。
シルバーは一度頷いてみせ、大丈夫だと暗示した。
《疲れておる時にすまんのう。》
「構いません、休む時間はあったので。」
実際、精神的にはかなり回復した。
小夜ともきちんと話し合えたし、お互いの気持ちも理解出来た。
オーキド博士は神妙な声色で言った。
《如何しても気になる事があるんじゃ。
今、タブレットは近くにあるかな?》
「はい、起動します。」
シルバーは立ち上がり、壁際にある別のテーブルに置いてあったリュックを開けた。
其処からタブレットを取り出し、電源を入れた。
間もなく指紋認証で起動した。
「起動しました。」
シルバーの背後では、六匹のポケモンたちが相変わらずぎゅうぎゅうと身を寄せ合い、パソコンの画面を見ようと必死だ。
オーダイルはシルバーの隣にしゃがんでテーブルに顎を乗せ、マニューラはシルバーの膝の上に避難した。
ラティオスはジバコイルとクロバットの間で首を精一杯伸ばした。
ゲンガーは物質を通り抜ける身体の特性を生かし、クロバットの身体をすーっと通り抜けた。
クロバットはゴーストタイプのポケモンに身体を通られる独特の悪寒がした。
《君にデータを一つ送った。
確認して欲しい。》
シルバーはデータファイル共有ソフトを開いた。
シルバーが薬の調合データなどを保存し、オーキド博士と共有しているソフトだ。
新たに受信しているデータを開いてみると、誰かの講演会の広告らしいページが開いた。
その人物の名前を見て、シルバーは息を呑んだ。
「シラヌイ…。」
小さくて四角い眼鏡に、黒髪の一部を白く染め、顎には取って付けたような髭のある男。
シルバーがまだサカキの屋敷に住んでいた頃、サカキのパソコンを盗み見て知った顔だ。
ロケット団に所属する博士であり、今日の話し合いでハガネールの口から出た人物の名前だ。
ライコウを捕獲する為の装置を作り出したのは、そのシラヌイという男だ。
《そのシラヌイという博士とは一度逢った事がある。
わしが何年か前に出張で参加したポケモン学会に、その男が乱入したんじゃ。》
名誉あるポケモン博士が集められた会議に、その博士は突如乱入した。
そして鼻高々に語り出したのだ。
《当時は生物兵器を作ると語っておった。》
「ポケモンに用いるウイルスですか。」
《その通りじゃ。》
広告のデータを見ると、講演日時は明後日。
講演内容は大昔の人々が戦争で使用した生物兵器に関して≠セ。
講演会の場所はホウエン地方のカナズミシティにある市民ホールとなっている。
《コンピュータ上で仮想の生物兵器を発明しているとも語っておった。》
「まさか――」
シルバーには瞬く間に察した。
コンピュータ上のデータとなると、リュックに大切にしまってあるUSBメモリを思い出したのだ。
《君は過去に飛んで電子データを破壊するウイルスソフトをバショウ君から受け取った。
それと関係がある気がしてならん。》
「…俺もそう思いました。」
その生物兵器に関するデータを削除して欲しい。
シンオウ地方の神話に登場する伝説のポケモン、ディアルガからそう依頼されているように感じた。
「この件を小夜は?」
《まだ何も知らん。》
シルバーは深々と考え込んだ。
如何する?
何も行動せずに予知夢の日を待つのか?
小夜なら何と言うだろうか。
命を大切にする小夜なら、今のシルバーに何を伝えるだろうか。
沢山の間を置いてから、シルバーは決意した。
「俺はこの件を見過ごせません。
明日カナズミシティに向かいます。」
《そう言うと思っておった。》
オーキド博士は反論しなかった。
ロケット団に所属する人間との接触は避けたい処だが、見過ごせないのはシルバーと同じなのだ。
だがロケット団員が相手となれば、シルバーは派手には動けない。
其処でオーキド博士は考えた。
《是非とも協力して欲しい人間がいる。
君からも直接協力を仰いで欲しい。》
シルバーはその人物に関して、すぐに思い立った。
カナズミシティにはあの有名な大企業デボンコーポレーションがある。
その御曹司は――ツワブキ・ダイゴだ。
2017.8.6
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