映像-2

朝焼け空は曇りがちで、外を薄暗く見せていた。
ダイゴに逢うのは今日が初めてだ。

シルバーはメガラティオスの背に乗り、ホウエン地方の海の上を北に飛行していた。
東側の遠方に小さく見えるのはトウカの森。
ポケモンハンターに追われていたラティオスをシルバーが助けた森だ。
余裕を持って高度を取りながら高速飛行していたラティオスは、その森をじっと眺めた。
予知夢の現場となる森を通るのを避けている為、遠巻きに眺めるだけだ。
その視線に気付いたシルバーは、空気抵抗を減らす為に前屈みになりながら尋ねた。

「思い出すのは嫌か?」

ラティオスは首を横に振った。
シルバーと運命的な出逢いをした思い出の森だ。
あの森でシルバーと出逢った時の光景を鮮明に覚えている。
無表情でポケモンハンターを見据え、ゲンガーを絆の力でメガ進化させた聡明な青年。
今、ラティオスはその青年シルバーを主人として慕い、背に乗せて飛行している。

「あれがカナズミシティか。」

デボンコーポレーションらしき建造物が微かに見えた。
カナズミシティが近くなったのを確認すると、シルバーはポケナビを操作した。
強風に髪が揺れる中、呼び出したのは恋人だ。

《もしもし。》

「小夜、俺だ。」

小夜の声色には既に不安の色があった。
ラティオスはシルバーが話し易いように、少しだけ飛行速度を落とした。
シルバーはその気遣いに感謝し、ラティオスの背を一度だけポンと叩いた。

「もうすぐカナズミシティに着く。」

《シルバーもラティオスも長旅お疲れ様。》

小夜の声が聴こえているラティオスは一声鳴いてみせた。
シルバーはカナズミシティに到着する前に小夜にポケナビで報告すると話してあった。

《シルバー…やっぱり心配。》

「正直俺も心配だが、ダイゴの協力もある。」

ダイゴの協力は非常に心強い。
今からダイゴに協力を仰ぎに行く。
オーキド博士はダイゴに電話で「君に協力して欲しい事がある」とだけ簡潔に言ってある。
ダイゴは詳しい内容を聴いていないにも関わらず、快く了承してくれた。
詳しい内容はシルバーが直々に逢って話す予定だ。

《シルバーがもうすぐ到着するってダイゴさんに連絡するね。》

「分かった、頼む。」

シルバーはダイゴの連絡先を知らない。
オーキド博士から連絡して貰うのだ。

《また連絡して?》

「ああ、すぐ連絡する。」

《待ってるね。》

小夜の声は名残惜しそうだった。
ダイゴとの話が終われば、すぐにでも電話をしよう。

「じゃあな。」

《うん、また…。》

プツリと電話が切れた。
ラティオスは首を少し曲げ、背に乗るシルバーの様子を窺った。
シルバーは真っ直ぐ前を向いた。

「気を遣わせて悪い。

速度を上げてくれ。」

“分かった。”

頷いたラティオスは速度を上げ、トウカの森を遠巻きに見ながら飛行した。
其処からカナズミシティまでは然程時間は掛からず、デボンコーポレーションの屋上に到着した。
大企業らしい広々とした屋上には、ダイゴが待っていた。
御曹司らしい身なりの正装で、青みのある銀髪を揺らしていた。
本来はヘリコプターの発着に使用される場所に、シルバーとラティオスは降り立った。
ラティオスはメガ進化を解き、亡き彼を彷彿とさせる人物を見つめた。

「待っていたよ。

直接逢うのは初めてだね。」

ダイゴはシルバーとラティオスに笑顔を見せた。
テレビ電話をした時はダイゴに警戒したシルバーだが、今回はそうではない。
ダイゴは小夜の正体を知る数少ない人物の一人であり、此方は協力を求める側だ。

「改めて自己紹介するよ。

僕はツワブキ・ダイゴだ。」

「シルバーです。

今日は宜しくお願いします。」

ダイゴに手を差し出され、シルバーはその手を握った。
小夜が話していたが、確かに紳士的な印象を受ける。
握手を交わした後、ダイゴはラティオスに目を見張った。
その腕にはメガバングルがあり、ラティオスナイトの煌めきがある。

「驚いたな…ラティオスに逢えるなんて。」

ラティオスはダイゴに律儀に頭を下げた。
昨日にも過去に送られて亡き彼に逢ったばかりだが、確かに彼とダイゴは少し似ているように思う。
ダイゴは興味深そうに言った。

「君に譲ったのは確かゲンガナイトだったけど、君はラティオスナイトも持っていたんだね。

ラティオスもメガ進化するのか…。」

メガストーンの話になると、シルバーははっとした。
シルバーの右手首の袖に隠れているキーストーンは、他でもなくダイゴから貰ったものだ。

「貴重な物をありがとうございました。」

「いいんだよ、大事に使ってくれているみたいだしね。」

その通りだというように、ラティオスがうんうんと頷いた。
ダイゴはシルバーとの絆の力でメガ進化してみせるラティオスに微笑んだ。

「早速話を聴こうか。

その前に場所を移そう。」

「分かりました。」

シルバーはベルトのモンスターボールホルダーからラティオスのボールを取り外した。

「ラティオス、助かった。

ゆっくり休んでくれ。」

ラティオスは頷き、そのボールに吸い込まれた。
それを見届けたダイゴが言った。

「案内するよ。」

「はい。」

二人はデボンコーポレーションの建物内へと歩き始めた。
シルバーは気を引き締め、一歩一歩をしっかりとした脚取りで進んだ。



2017.8.13




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