何時か必ず

一見普通の人間だが、中身はポケモンの血が混ざっている。
つまり、人間とポケモンのハイブリッド。
そんな不思議な少女と出逢ったのも、何らかの運命に導かれているからだと感じる。
一階の庭で相棒のメタグロスにチョコレート味のポフレを食べさせる小夜は、守らなければならない気持ちにさせる。
ダイゴはベランダの縁側に腰を下ろしながら言った。

「如何しても色々と訊きたくなってしまうんだけど。」

『可能な限りは答えますよ。』

ダイゴのメタグロスは小夜に頭を撫でられ、御満悦の様子だ。
昨日の今日で随分と小夜に懐いたが、やはり会話出来るのが一つの要因だ。
ダイゴはそんなメタグロスを微笑ましく思いながらも、慎重に質問した。

「君が言っていた僕に似ている大切な人は…どんな人だったんだい?」

小夜の瞳が見開かれた。
周囲にいたポケモンたちも顔を上げたり目を泳がせたりして反応した。


―――亡くなった大切な人に、貴方が似ていると思ったからです。


小夜はそう言っていた。
やはり訊いてはいけなかったようだ。
ダイゴは回答しなくても結構だと主張しようとしたが、口を開いたのは小夜の方が早かった。

『私の恋人でした。』

「シルバー君の前に?」

『はい。』

小夜は風に揺れる髪を耳に掛け、ダイゴの目を見た。
その優美さに目を奪われたダイゴは、ひと時だけ我を忘れた。

『これ以上は…。

一ヶ月後なら話せるかもしれません。』

「それまでに何かあるのかい?」

『詳しくは言えません。』

小夜の隣にいるメタグロスが小夜を見上げた。
メガ進化した自分のコメットパンチを片手で受け止め、金縛りまで使用してみせた美少女。
この華奢な身体に信じられないような能力を秘めているに違いない。

「僕に何か出来る事は?」

『…そうですね。

帰りはカントー地方を通るのを避けて下さい。

なので、ネンドールに送らせて貰えませんか?』

「此処から帰る時に…?」

『はい。』

「分かった。」

ダイゴは昨日の事もあり、トキワの森を通る気分にはなれなかった。
小夜はロケット団の活動地域であるカントー地方をダイゴに歩かせたくはなかった。
小夜がネンドールの沢山ある目を見ると、ネンドールは頷いた。
テレポートなら自分に任せて欲しい。

『後、もう一つ。

次に私とシルバーがホウエン地方へ向かう時は、貴方の言っていたプライベートジェットに乗せて下さい。』

「勿論だよ。」

小夜は微笑んだ。
次に小夜とシルバーがホウエン地方へ向かうのは、予知夢の当日が過ぎた後の話だ。
まだ先の話になる。

『話を変えても?』

「構わないよ。」

小夜は微笑んでいるが、次に口にした台詞は真剣な内容だった。

『貴方は解読者の私に逢いに来ましたが…逢うだけですか?』

「!」

『他にも何か用件があったのでは?』

「…お見通しだね。」

ダイゴは立ち上がると、ジャケットの内ポケットから小型タブレットを取り出し、電源を入れた。
メモリからとある木簡の画像を探し出し、小夜に見せた。

「これは君が解読した古代文字の一部だ。」

小夜のポケモンたちが一斉に群がり、それを見ようと首を伸ばした。
ハガネールの巨体が覗き込んできて驚いたダイゴは、それを一匹一匹に見せた。
見せた処で謎でしかないが。

「僕が探しているメガ進化のルーツ、伝説の巨石に関して書かれている木簡だ。

この巨石に関して、解読者に協力を要請しようと思っていた。」

『協力…とは?』

「僕と一緒に来て欲しい。

一緒に巨石を探して欲しい。」

大人しく会話を聴いていたエーフィがダイゴに不満を言おうとしたが、スイクンに止められた。
邪魔せずに二人を見守るべきだ。
小夜は静かにゆっくりと瞬きをした。
真剣な表情をするダイゴと黙って見つめ合った。

「そう言おうと思っていたけど、出直すよ。」

張り詰めていたエーフィの心が少しだけ落ち着いた。
小夜は微笑み、一度だけ頷いた。

『何時か協力出来る日が来ればいいですね。』

「その時はシルバー君も一緒に。」

『はい。』

この研究所に滞在するだけではなく、もっと色々な世界を見てみたい。
この世界にはまだ見ぬポケモンたちが沢山いる。
予知夢が現実となる当日さえ過ぎれば、きっと素敵な日々が待っている。
ダイゴはその手伝いをしたかった。




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