桜乃ちゃんと変人

放課後、久し振りに部活に参加する事になった。
部員の皆が国別対抗戦での優勝を讃えてくれた。
今後は部活に参加出来ない日も増える筈なのに、部長もレギュラー陣の先輩もとても良くしてくれる。
ありがたい事だ。

「こうかな?」

『うん、そう。

じゃあトス行くよ!』

「はい!」

1年生部員が先輩たちのトスをネット越しに返している。
トス上げに参加しているのは、あたしもそうだった。
何時もペアを組むのは、同じクラスの竜崎桜乃ちゃん。
三つ編みがびっくりするくらい長くて、前髪をお花のピンで留めている女の子。
桜乃ちゃんはあたしのアドバイス通りにラケットを振り抜くけど、空振りに終わる。
あたしは冷や汗を掻いた。
男子テニス部顧問の竜崎スミレ先生の孫だと聞いていたのに、ここまで運動音痴だとは。

「ごめんね、愛ちゃん…。」

『気を落とさないで、大丈夫だよ。』

すると、部長の集合の声がメガホンで響いた。
部員全員が部長の前に整列しに向かった。
レギュラー陣が一番前の列に並び、その後ろには学年毎に前から後ろへと並んでいく。
男子テニス部も上下関係が激しいけど、女子テニス部もまた然り。
部長の挨拶で部活が終了し、1年生はネットやボールの片付けをする。
レギュラーなのに片付けを手伝うあたしは、隣でボールを拾いながら肩を落とす桜乃ちゃんを励ました。

『桜乃ちゃん、元気出して。』

「私、テニス向いてないのかなあ…。」

『そんな事ないよ。』

片付けを済ませると、先輩と交代するように部室に入り、着替えを済ませた。
その後は桜乃ちゃんと話しながら部室を出た。
あたしはこれからテニススクールに行ってコートを借り、夜まで更に練習する予定だ。

「愛ちゃんが羨ましいな…。」

『えっ?』

急な話にきょとんとしてしまった。
桜乃ちゃんは男子テニス部のコート前で立ち止まった。
その先にいるのは何時も越前リョーマ君だけど、今日はもう既にコートに人がいない。
桜乃ちゃんは越前君に憧れてテニス部に入った。
越前君の事が好きなんだ。

「愛ちゃんはテニスが上手だし、凄く美人だし。」

テニスに関してはプライドがあるとはいえ、あたしが美人だなんてあり得ないし、実に疑わしい。
褒められるのは嬉しいけど、返答に困った。
自信を喪失してしまった桜乃ちゃんを、如何励ましたらいいんだろう。
その時、何処からともなくサッカーボールが大きくバウンドしてきた。
桜乃ちゃんは自分にぶつかりそうになったボールを慌ててキャッチした。
運動場から遠いテニスコートの傍でサッカーボールが転がってくるなんて珍しい。
すると、一人の男子が小走りで取りに来た。
黒髪で短髪の何処にでもいるようなモブ系男子だ。

「すみませーん!

あれ、不二と竜崎じゃん。」

苗字で呼ばれたけど、あたしにはこのサッカー部員らしき男子が誰か分からない。
桜乃ちゃんは控えめに言った。

「同じクラスの…。」

「そうそう。」

『危ないでしょ、こんな処で。』

「あーごめんごめん、生徒会の書記さん。」

適当に謝るクラスメイトらしき男子にムッとする。
あたしたち以外にも周りに人がいたら如何してくれるんだ。
サッカー部のユニフォームを着ていない癖に、サッカーボールは片付けておいて欲しい。
桜乃ちゃんは丁重にボールを返したけど、そのクラスメイトがいなくなる様子はない。
しかも突然、思い出したように笑って言った。

「何だよ不二、ちゃんと来てくれたのかー!」

『はい?』

一体、何の話?
あたしは不快に眉を寄せた。

「竜崎、先に帰れよ。

俺は不二と此処で待ち合わせしてたんだ。」

「そ…そうだったんだ。」

『えっ、ちが――』

「だから竜崎は先に帰ってくれよな。」

「わ、分かった。

じゃあ愛ちゃん、また明日ね。」

桜乃ちゃんはこのクラスメイトの勢いに負け、早足で去ってしまった。
あたしは置いていかれてしまい、ぽかんとした。





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