不二兄妹

翌朝。
目覚めた瞬間から手塚先輩の事が思い出される。
早寝早起きだろうし、もう起きているのかな?
毎晩どんな格好で寝ているのかな?
朝ごはんは何を食べたのかな?
夢見心地で洗面所まで行くと、手早く洗顔した。
ふと唇に触れ、手塚先輩とのキスを思い出す。
まだ夢みたいだ。

―――敬語をやめて欲しい。

『………無理過ぎる。』

突然思い出した手塚先輩からの要望。
とりあえず、一歩ずつ。
まずははい≠うん≠ノ変えるとか?

『よし!』

鏡に映る自分に頷いた。
今日も頑張れそうだ。
早速、まだお布団の中でもぞもぞしていそうなお兄ちゃんを起こしに行った。



お兄ちゃんと一緒に青学の門を抜けると、真っ先に探すのは手塚先輩の姿。
あたしがきょろきょろしていると、隣を歩いていたお兄ちゃんに笑われた。

『何よ。』

「別に。」

お兄ちゃんからプイッと顔を背け、テニスコートのフェンス沿いを歩く。
既に男子テニス部の1年生がコートのネットやボールの準備をしていた。
男子テニス部は特に上下関係が激しい。
すると、背後から声がした。

「不二。」

「やあ、手塚。」
『あ、手塚先輩!』

「…。」

同時に振り向き、同時に言った。
既にレギュラージャージに着替え終わっている手塚先輩は、あたしたち不二兄妹を沈黙しながら見た。
当然ながら学校では苗字で呼ばれる訳だけど、お兄ちゃんと一緒にいる時は両方が不二だ。
手塚先輩がどっちを呼んだのかが分からない。
お兄ちゃんはクスッと笑った。

「付き合っているのを隠すと困る事が一つ見つかったね。」

『お兄ちゃん煩い。

手塚先輩、おはようございます。』

「ああ、おはよう。」

朝から手塚先輩に逢えて嬉しいあたしは、思わず顔が緩んでしまった。
呼び捨てに出来ない事に困るのは、お兄ちゃんと一緒にいる時だけ。
支障なんて最低限だ。

「手塚、愛にも言ったけど、隠すのは難しいと思うよ。」

「何故だ。」

「これも愛に言ったけど、きっとすぐに分かるよ。」

手塚先輩は普段のポーカーフェイスを崩さない。
あたしはこの会話を断ち切るべく、くるりと踵を返した。

『それじゃあ、朝練行ってきます!』

「ああ、油断せずに行ってこい。」

「また家でね。」

パタパタと慌ただしく走り、テニスコートの傍にある部室へと直行した。
お兄ちゃんの言っている意味がよく分からない。
手塚先輩にキューピッドとやらの話も聞きたいけど、お兄ちゃんがいる前では絶対に嫌だ。
何かとからかわれるのが目に見えている。
気持ちを切り替え、ラケットのグリップを握った。



2016.11.29




page 1/1

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -