騒々しい音が聴こえる方向へタツベイが脚を進めていると、自分とは逆の方向へ逃げ去っていく多数のポケモンとすれ違った。
一体この先で何が起こっているのだろうか。
木の影から覗いて目に入ったのは、先程自分を救ってくれた小夜がスイクンと共にロケット団と対峙している場面だった。
その混沌とした状況をタツベイは見て見ぬ振りが出来なかったのだ。
そして今、タツベイはロケット団相手に小夜を庇うようにして毅然と立っている。

『タツベイ、来ちゃ駄目、逃げて!』

小夜はこの戦闘にタツベイまで巻き込みたくなかった。
相手の数は削り、今残っている敵のポケモンはイワーク、デンチュラ、そしてベトベトンだ。
この状況は明らかに不利だ。
タツベイは小夜の忠告も聴かず、怒涛の如く団員のポケモンに向かって突進した。
タツベイのスピードは敏速で、小夜が自分の目を疑った程だった。

「邪魔するんじゃねぇ!

ベトベトン、毒ガスだ!」

ベトベトンの口から有毒のガスが放出された。
だがタツベイは躊躇なく事なく突っ込み、ドラゴンクローを喰らわせた。

『あのタツベイ、強い。』

崖から飛び降りるという無鉄砲な修行をしていただけはある。
高威力な物理攻撃にベトベトンは怯んだが、タツベイは毒を受けて顔が青みを帯びた。
バショウは痺れを切らし、命令した。

「イワーク、叩きつける攻撃。」

イワークは岩で構成されている尾を振り上げたが、その尾に向かってタツベイは頭突きで対抗した。
タツベイとイワークはお互いの攻撃に弾かれてよろめいたが、すぐに体勢を立て直した。

必死に抵抗するタツベイを見て、イーブイは自分の無力さを悔やんだ。
自分は何も出来ない。
小夜には助けられてばかりで、スイクンも狙われている身であるのにも関わらず勇敢に闘っている。
イーブイの目に涙が浮かんだ。

『このっ!』

小夜はイワークの頭部後方に素早く移動すると、その顔に拳を叩きつけた。
イワークは地面に顔面を打ちつけられて目が回った。
バショウは戦闘不能になったイワークを静かにボールへと戻した。

「中々やりますね。」

あの研究所によって強く造られているだけある。
だがその時、毒によって動きが鈍くなっていたタツベイにベトベトンがのしかかり、タツベイの身体を完全に包み込んでしまった。

『タツベイ!』

ベトベトンが口からタツベイを吐き出すと、毒に侵され真っ青になったタツベイが小夜の目の前でうつ伏せに倒れた。
ベトベトンはそのまま小夜にも襲い掛かろうとしたが、小夜の横を過ったオーロラビームがベトベトンに直撃した。

「今だ、デンチュラ、エレキネット!」

オーロラビームを放つスイクンは電気を帯びた糸に身体を絡め取られてしまった。
小夜は動けなくなったスイクンを振り返った。

しまった、私のせいでスイクンが…!

「捕まえたぜ、そのまま十万ボルト!」

デンチュラは口から出ている糸を通してスイクンに十万ボルトを初めて命中させた。
スイクンは苦渋の声を上げたが、ミラーコートによってそれを跳ね返した。
糸を伝って電気が逆流し、デンチュラは自分の電気を二倍返しで浴びてしまった。
スイクンを捕えている糸を小夜が念力で解くと、スイクンはその場に倒れた。
小夜は真っ青なタツベイを抱き上げてスイクンに駆け寄った。

『スイクン!』

団員は戦闘不能になったデンチュラとベトベトンをボールに戻した。
ロケット団側にもうポケモンはいない。
団員の一人は咄嗟にポケットから小型ナイフを取り出し、イーブイの喉元に突き付けた。

「少しでも動いてみろ、こいつの命はない!」

小夜は瞳を大きく見開き、動けなかった。
イーブイの喉から僅かに血が伝う。

『やめて、お願い!』

イーブイは怯えて震えていた。
小夜にはイーブイを助けたいという意思はあったが、もう立っているのもやっとだった。
だがイーブイを助けたい。
如何にかして助けたい。

バショウは心の奥底へと戸惑いを押し退け、黒いボールを取り出した。
スイクンを捕獲する気だ。
小夜は一旦タツベイを腕から下ろすと、庇うようにしてスイクンの前に腕を広げて立った。

「まだ闘う気ですか。」

『スイクンに手は出させない。』

イーブイの頬に涙が伝った。
小夜を助けたい。
ニューアイランドの研究所で命を救ってくれた小夜を今度は自分が助けたい。
危険も顧みずに闘ったスイクン。
必死で立ち向かったタツベイ。
だが自分は如何だろうか。
咄嗟に飛び出して人質に取られるなど、ただの足手纏いだ。
小夜の役に立ちたい。
皆を守る力が欲しい。
守りたい、そして…

助けたい。

突如、イーブイが眩い光に包まれた。
掴んでいるイーブイが目を開けていられない程の眩い光を放ち始め、団員は面喰った表情をした。

「な、な、なんだ?!」

『イーブイ?!』

その眩さに全員が腕で目を覆うと、団員の持っていたナイフが念力によって吹き飛んだ。
その念力は小夜のものではなかった。

『あれは…もしかして。』

団員が首根っこを掴んでいるのは、イーブイではなかった。
体毛は紫、額には赤い玉、大きな耳に、先端が分かれた細い尾。

『エーフィ…!』

イーブイの願いは届き、エスパータイプのエーフィに進化を遂げたのだ。
エーフィが自分を掴んでいる団員にサイコキネシスを放った。
その団員は吹き飛び、木に背中を打ち付けて意識を失った。
自由になったエーフィは更に残った団員二人にもサイコキネシスを放って吹き飛ばした。
団員は同様に木に激突し、二人共々気絶した。
エーフィは小夜に駆け寄り、小夜は腕を広げてエーフィを抱き締めた。

『君、進化したんだね。』

小夜は視界の霞んだ瞳を気力で開き、エーフィに微笑んだ。
エーフィは嬉しそうに一声鳴くと、バショウを振り返った。
依然として冷静な態度で腕を組んでいるバショウは、小夜を無表情で見つめている。




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