道-2

「潔く敗北を認めます。

此処は引きましょう。」

エーフィには最初から一貫してバショウが冷静であるように見えた。
今回の件でバショウが冷酷で無慈悲な男であるという印象が、エーフィの中に深々と刻まれた。
エーフィはサイコキネシスによってバショウを攻撃する事も出来る。
だが小夜とバショウの関連性が頭の片隅に引っ掛かり、行動に移せずにいた。
小夜は紫の瞳でバショウを睨み付けていた。
今なら団員は全員気絶している為、バショウと研究所の話題を話せる。
口を開こうとしたその瞬間、その瞳からふっと光が消えた。
バショウは小夜の異変に気付き、目を見開いて静かに息を呑んだ。


―――ドサッ…


小夜は冷たい地面に倒れ込んだ。

「小夜…!」

バショウは思わず小夜の名前を呼び、小夜に駆け寄ろうとした。
だがエーフィがバショウの前に立ち塞がった。
背中の体毛を逆立て、低く唸って威嚇した。
もうバショウを隊長と呼ぶ団員は気絶しており、バショウの行動は一切見られていない。
バショウは意を決し、エーフィを真っ直ぐに見つめた。

「お願いです。」

エーフィは唸るのを止め、先程とは態度が一変したバショウを目を細めて見つめた。

「通して下さい。」

バショウは一体小夜の何なのか。
エーフィは未だに分からなかったが、バショウの目はもう敵意を映していなかった。
エスパータイプに進化した今、第六感はイーブイの頃と比較にならない程に発達している。
この男は敵だが、敵ではない。
矛盾しているのは分かっているが、第六感がそう自分に語り掛けていた。
エーフィはバショウを睨んで警戒したままゆっくりと後方に下がり、道を開けた。

「ありがとうございます。」

バショウはすぐに小夜の元へ駆け寄ると、その小さな身体をしゃがんで抱き起こした。
エーフィはその様子を監視するように覗い、バショウが何か怪しい行動をすればすぐに吹き飛ばしてやろうと身構えていた。
だがバショウの顔は今まで見てきた無表情とは打って変わって悲痛な表情を浮かべていた。

「小夜、目を覚まして下さい…!」

バショウの声を聴いて、隣に倒れていたスイクンが僅かに目を開いた。
狭く霞んだ視界が徐々にはっきりとしてくると、バショウが小夜を抱き起こしているのが見えた。
やはりバショウは小夜にとって白である。
スイクンは密かにそう思うと、体力回復の為に再度目を閉じた。

小夜が薄く開いている瞳には光がない。
バショウは死んでしまったのかと案じたが、口元に手を当てれば、まだ息をしている。
バショウは腰のバッグに手を入れ、透明で密封された薄い袋を取り出した。
その中には十cm程の細く枯れた蔓のような植物が入っていた。
エーフィは一体何なのかとバショウを睨む。

「これは復活草≠ニ呼ばれる漢方薬で、瀕死のポケモンを回復させる効果があります。」

バショウは怪しんでいるエーフィにそう説明すると、手で小夜の口を開き、それを中へ無理矢理ねじ込んだ。
喉の奥まで入れると、小夜の口をぐっと閉めた。

「飲み込んで下さい。」

小夜の喉の一部が隆起して上から下へ移動し、無事飲み込んだ。
ポケモンの薬を人間に飲ませて効果があるのか、とエーフィは疑問に思った。

『っ!』

小夜の瞳に光が戻り、カッと瞳を開くや否や口を手で覆った。

『に、にが…い!』

「良薬は口に苦し、ですよ。」

『!…バショウ。』

先程まで敵対していたバショウの顔が、小夜の視界に大きく現れた。
もしや自分は夢を見ているのか、と小夜は一瞬疑問に思った。
だが口内の強烈な苦味がそれは有り得ないと伝えていた。
自分を抱き起こしているバショウの顔をまじまじと見つめる。
甘えた声が聴こえたかと思うと、エーフィが脚に擦り寄ってきた。

『エーフィ…良かった。

スイクンとタツベイは?』

エーフィは倒れているスイクンとタツベイの方向へと視線を向けた。
スイクンは傷ついた身体でゆっくりと立ち上がる途中で、タツベイは真っ青のまま仰向けに倒れている。

『スイクン、大丈夫!?』

スイクンはゆっくりと頷いた。
その隣で尚もタツベイは毒のダメージを受け続けており、顔が真っ青だ。

「タツベイは毒を盛られただけなので、木の実を使えば大丈夫でしょう。」

バショウはバッグから桃色の小さなモモンの実を取り出し、エーフィに差し出した。
エーフィはそれを噛んで受け取り、タツベイの口を念力で開けてその中に木の実を落とした。
ぽかんと開いたタツベイの口を前脚でぐっと閉じながら、エーフィはスイクンに大丈夫かと尋ねた。
スイクンはゆっくりと頷いた。
一方、小夜は自分の身体に不思議と体力が戻ってくるのを感じていた。




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