戦闘開始-4

小夜とスイクンの闘う意思を悟ったバショウは、冷たく言い放った。

「スイクンを捕獲します。」

小夜は戦闘態勢を取る。
まさかこのような状況になるなんて、つい昨日までは微塵も想像もしなかった。
何故バショウは小夜を知らない振りをするのだろうか。
バショウには何かきっと考えがあるからだ、と小夜は信じようとした。
だが完全に彼を信じられない自分がいた。
そして団員の容赦ない攻撃が開始された。

「誰だか知らねぇが容赦しねぇ!

デンチュラ、十万ボルトだ!」

「クロバット、援護しろ!

スピードスターだ!」

敵の攻撃が小夜たちに向かって飛来する。
電気タイプの技は水タイプのスイクンには効果が抜群であり、スイクンに命中するのは避けたい。
小夜がシャドーボールを構えると、スイクンが横から駆け出した。

『スイクン?!』

スイクンはオーロラビームを口から放ち、それはデンチュラが放った十万ボルトと衝突して爆発を起こした。
だがスピードスターがスイクンを掠めて傷を作っていく。
スイクンは小夜に戦闘をさせる訳にはいかなかった。
小夜はスイクンが弱っている自分を庇っている事に気付き、自分の無力さに苛立った。

「やはり先程のオーロラビームはスイクンのものでしたか。」

バショウは戦闘を傍観する第三者のように腕を組んでいた。

「モルフォン、相手の動きを封じろ、痺れ粉!」

モルフォンが小夜の頭上を通過し、痺れ粉を振り撒いた。
だがそれを逆手に取ったスイクンは追風を発生させ、痺れ粉は向きを一転して相手のポケモンに襲い掛かる。

「イワーク、砂嵐。」

バショウの淡々とした命令により砂埃が地表から巻き上がり、痺れ粉を吹き飛ばした。
砂嵐によって視界が遮られていたが、突如砂埃を割ったシャドーボールがモルフォンに直撃した。
小さな黒い球体に秘められた強靭な威力に、モルフォンは目を回しながら地面に落ちた。
体力を大幅に消耗している小夜は、それでもまだシャドーボールを放つ。
これ以上小夜に技を放たせると、命に危険が及ぶ可能性がある。
バショウは顔には出さずとも、焦燥感が確実に胸を浸食していた。

「くそ、戻れモルフォン!」

団員はスイクンがシャドーボールを放つ事が出来ないと知っているだけに、何処から、そして何故シャドーボールが飛来したのかを疑問に思っていた。
まさかこの子供が放ったとでも言うのだろうか。
スイクンは相手に考える隙を与えず、すかさずハイドロポンプを放った。
小夜も息切れしながら、再度攻撃態勢に入った。

「デンチュラ、もう一発十万ボルト!」

「ベトベトン、ヘドロ爆弾!」

「クロバット、クロスポイズン!」

一斉攻撃が襲撃してくる。
小夜は躊躇なくシャドーボールを放った。
スイクンのハイドロポンプはヘドロ爆弾と衝突。
シャドーボールは十万ボルトと衝突。
其々が爆発して強風を起こした。
だがクロバットがクロスポイズンを構えたまま飛来する。
小夜は持ち前の運動神経でスイクンの前に音もなく現れると、再度シャドーボールを放った。
それを間近で受けたクロバットはモルフォンと同じように地表に落ちた。

「くそ、戻れクロバット!」

「何だあのガキは…!」

「ポケモンが化けているのか?」

「バショウ隊長、レーダー探知機が感知したあの子供の反応は?」

「……。」

バショウはやはり口を開かなかった。
団員に小夜の情報を漏洩させる事は断固として許されない。
それにバショウには考えがあった。

“下がっていろ!”

スイクンが小夜に言ったが、小夜は嫌だと首を横に振る。
すると地表からイワークが穴を掘って飛び出してきた。
小夜とスイクンは脚元を掬われて空中に身を投げ出され、スイクンはイワークによって絞め付けられてしまった。

『スイクン!』

一瞬怯んだ小夜はイワークの顔面の前に一瞬で移動すると、シャドーボールを近距離で叩きつけた。
イワークは地面に叩きつけられ、スイクンは解放された。

「デンチュラ、糸を吐いてあのガキの動きを封じろ!」

デンチュラが命令通り口から糸を吐き、糸は標的である小夜へと真っ直ぐに向かっていった。
小夜は紫の瞳を閉じた。
たとえ身体に負荷が掛かろうとも、威力の高いサイコキネシスならこの状況を乗り切れる。
一気に決める。
もう自分の身体は如何なっても構わない。
小夜がサイコキネシスを放とうとしたその時、灼熱の炎によってデンチュラの糸が焼き尽くされた。
小夜は勢い良く横切った高火力の炎に瞳を見開いた。

『炎…?!』

「何者ですか。」

バショウの冷淡な声が聴こえる中、小夜は後方を振り向いた。
其処には先程救ったばかりのタツベイが、怒りの面構えで踏ん反り返っている姿があった。



2013.1.19




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