全「頂きまーす!」
ノ「あう!」
数時間後、七隊とシノミヤ、ノア、羽柴は食卓を囲んでいた。
作ったのはノアと双葉だ。
羽「双葉さん、料理されるんですか?」
十「双葉はうちの家事担当だからね」
ノ「あうー!」
斎「そんなに速く食べると喉に詰めますよ」
シ「……」
双「あの、お口に合いますか?」
シ「…」(軽く頷く)
捺「…もっと、はっきり」
シ「はあ?なんでんなこと…」
燿「なに?双葉の料理が不味いとでも言うつもり?」
シ「…美味えよ、普通に」
なんて、わいわいと食事をつついている。
…一人を除いて。
ナツキはベッドの上で悶々としていた。
色々わからないことが多すぎる。
なんで、あのとき僕はここに戻ったのか、とか。
そもそもあの子達は何者なんだ、とか。
ドアがコンコン、とノックされる。
ノアかな?
シノミヤならもっと荒いよな。
なんて考えながらどうぞ、と声をかける。
しかし入ってきたのは予想外すぎる人物だった。
赤いスカーフに隠れた右目、恐ろしく長い銀髪。
ナ「…え、えと…神流、さん?」
神流はウェイトレスのように右の掌に食事のお盆を一つ、腕にもう一つ乗せ器用に左手でドアを開けている。
神「………」
無言で部屋に入り、ナツキの膝に食事を乗せた。
ナ「あ、ど、ども…」
ナツキがたどたどしく礼を言っても、神流は何も言わない。
ただ、そばにあった椅子に腰かけて食事を始めた。
それを見て、ナツキも箸をとる。
正直戸惑っていた。
神流は今日来た6人の中でも最も近付きがたい雰囲気を放っていた。
こんなとき、どうすればいいのだろう。
…気まずい。
げんなりしながら料理を口に入れた。
ナ「…あれ?」
なんだろう、いつもと何か違う。
神「…どうした?」
突然声をかけられ、思わず肩が跳ねる。
ナ「へっ!?は、はい!これ、ノアが作ったのかなって…」
神「…ノアと双葉が作った料理だ」
ナ「双葉さん…?」
確かに味付けがいつもと違う。
神流はそれ以上はしゃべらず、また黙々と食事を始めた。
それにならい、ナツキも箸を進める。
味付けは違うが、普通に美味しい。
難なく食べ終えてしまった。
ナ「ごちそうさまでした」
かちゃり、と箸を置くと、神流がさっと下げて机においた。
そして椅子に座り直すとナツキを見た。
ナ「…あ、あの…なにか?」
いたたまれず目をそらす。
神「…運が良かったな」
ナ「へ?」
また唐突に言われて、変な声が出た。
神「…お前があの場にいたこと…皆に気づかれていないとでも思ったのか?」
ナ「…気付いてたんですか」
彼としては隠れているつもりだったのだ。
神「…あれで身を隠していたつもりなら、正直神経を疑うぞ」
ナ「ううう…」
神「…私がお前をここに飛ばしていなかったら…あの化け物の餌食だったぞ」
ナ「え?神流さんがここに?」
思わず聞き返す。
神流は眉をしかめて
神「…そうだと言っているだろう。二度も言わせるな」
ナ「す、すみません…」
そうか、この人が…。
ナ「ありがとうございました」
神「…礼なら私より双葉に言え」
ナ「え?」
神「…燿やあのスナイパーや所長にお前を責めないよう必死で説得したのはあいつだからな」
ナ「シノミヤたちを?」
神「…おそらく、双葉が燿を止めなかったら…お前の生死が危うかったぞ」
ナ「えっ!」
神「…本気で切れていたからな。…それよりも」
そこからは神流の怒濤の正論攻撃が始まった。
神「…前線に立たないとはいえ双葉もそれなりの訓練はしてある。一人ならあの程度余裕で逃げられたはずだ。だがお前がいたせいで動きが制限され、不覚をとったんだ。そもそもなぜ怪我人がノコノコと戦地に出てきた。お前の考えなしの行動で面倒なことになるとは思わなかったのか?それにお前にとってもデメリットしかないだろう。今回は傷が悪化するだけで済んだが、下手したら死んでいたかも知れない。足を負傷した自分の立場を少しはわきまえろ」
神流の言葉の一つ一つが、ズシッズシッとナツキにのし掛かる。
最終的にベッドに沈んでしまった。
言いたいことを言い切った神流は、一息つく。
ナツキは布団から顔をだし、神流を見る。
神「…何故そう急く?お前は経験も浅い。いきなり戦力になるわけがないだろう」
ナ「ううう…」
容赦のない神流の言葉に、ナツキのメンタルは限界を迎えていた。
ナ「そんなストレートに言わなくてもいいじゃないですか…」
神「…」
ナツキのぼやきに、神流はもとより鋭い目をさらに細めて軽くため息をついた。
そして、椅子から立ち上がるとナツキのベッドに近付いた。
ナツキは思わず身構える。
そして神流はベッドに立ち止まり、こちらに手を伸ばした。
反射的に目をつぶる。
ぽん
ナ「!?」
頭に乗った、わずかな重み。
それは、左右に揺れるとすっとなくなった。
驚いてナツキが顔を上げるが、もう神流は空の食器が乗ったお盆をまた器用に二つ持つとさっさと出て行ってしまった。
ナツキは茫然と閉じられた扉を眺めていた。
神流が戻ると、他メンバーが待っていた。
双「あっ!神流ちゃん!ど、どうだった!?」
神「…どうもこうもない」
十「元気だったんだね。良かった良かった」
神「…それよりも治癒。なぜお前が行かない」
双「だ…だって…」
十「だって?」
双「…ううう…て、て、て…」
神「…手?」
双「…手、繋いじゃったんだもん…逃げるとき…」
神十「「…は?」」
双「だから!…手繋いじゃったの!だ、男性とだよ!…もう駄目、会えない…」
顔を両手で覆う双葉に、神流と十六夜は片手で頭を押さえた。
そこに斎希と捺波、燿もやってきた。
斎「みんな」
十「お、来た来た」
燿「ほい、今日の収穫」
ぴら、と出したのは諭吉が五枚。
十「え、少な!いつもなら、なにやかやと言いくるめて二ケタはふんだくるのに」
捺「…」ニコ
燿「なんかさ、双葉の一件でお金のことはどうでもよくなったんだよね。でもタダ働きはごめんだからこれだけもらってきた」
斎「あら、それは初耳ね。羽柴さんに渡されただけのくせに」
燿「こら余計なこと言うな」
くだらないやり取りをしながら、七隊たちはその世界を後にした。
秋桜の花言葉
【
乙女の真心】
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