燿「…長いな」
シ「…長えな」
十「長いね」
神「…お前たちの感想など聞いていない」
七隊、及びシノミヤは残ったセカンドタイプを見て呟いた。
長い、とにかく長い。
比喩に非ず。
足だけで三メートル、全体だと五メートルは優に越えるだろう。
捺「…十六夜、作戦は?」
十「うーん…」
シ「…所長、どうすんだ?」
羽「お任せしますよ、シノミヤ君」
シ「ち、無責任な…」
ノ「うぅ?」
神「…雷、特攻してこい」
燿「はぁぁ!?嫌だよ!」
やんややんやと騒いでいる七隊とシノミヤをよそに、セカンドタイプは悠然と佇んでいる。
斎「ずいぶん、堂々としているのね」
羽「余裕、という感じですね」
そのとき。
それまで静かだったセカンドタイプが、突然咆哮をあげて長い腕を大きく振り回した。
リーチもさることながら、風圧を伴った不意討ちに七隊たちは吹っ飛ばされる。
シノミヤは数百メートル離れていたため難を逃れたが、風圧はシノミヤのいる場所まで伝わってきた。
華麗に着地した七隊とノアは、臨戦態勢を立て直す。
シノミヤもスコープを覗き、頭に照準を合わせた。
十「っし、行くぞ!」
十六夜の掛け声に七隊、ノア、シノミヤが苛烈な攻撃を開始した。
そして、その様子を木陰から見ているのは双葉とナツキ。
双葉は戦闘能力を持たないため、陰で回復に回るのだ。
しかし、大群をなす破壊者と違い、セカンドタイプは単体独立。
ノアもシノミヤも七隊たちも、上手いこと攻撃をかわしているので今のところは怪我なし。
ただそこに、なぜか怪我人のナツキが来てしまったのだ。
双「なぜ、ここに!お戻りください、危ないです!」
ナ「足なら大丈夫です、もう…」
双「ダメです!気を抜いては、取り返しのない大怪我に繋がります!」
ナツキがここにいる理由。
それは、言ってしまえば気になったからだ。
どこの誰とも知らない少女が、セカンドタイプを撃破した。
その話が、ナツキの胸にのし掛かっていた。
いくら自分が戦闘慣れしていないとはいえ、少女に負けたとは彼のプライド的に悔しい。
いったい、どんな戦いを…とどうしても見たかったのだ。
しかし、見てみればそこにあったのは一糸乱れぬ連携。
仲間の制止を振り切り、勝手に暴走した自分とは全く逆だった。
ナ「…すごいですね」
双「え?」
ナ「ああやって、お互いをフォローして見事に連携して…」
双葉はきょとんとナツキを見つめる。が。
双「…最初からできたことではありませんよ」
ナ「?」
双「…最初は…喧嘩して、ぶつかって。それで、危険な目にあったことも沢山ありました。そういう中でお互い信頼できるようになって…初めて連携できたんです」
ナ「…」
双「私だって、コンプレックスだったんですよ。皆と戦えないこと。でも、代わりに回復ができた。皆も言ってくれたんです。前線で敵と対峙することだけが、戦いじゃない。裏のサポートも、立派な戦力なんだって」
ナツキは遠くでライフルを撃つシノミヤを見つめた。
…僕もいつか、あいつと…。
ナツキの思考はそこで遮られた。
双「危ない!」
わけもわからず、気がついたら双葉と地面に倒れていた。
見れば、今いた場所にセカンドタイプの腕がめり込んでいる。
双「逃げましょう、ナツキさん!」
双葉に言われ、走ろうとする。
しかし、激しい痛みが太ももを貫き、その場に崩れてしまった。
双「やっぱり無理していたんじゃないですか!」
双葉はナツキのそばにしゃがみこむと、掌にこぶし大の水色の光を出すと、その太ももに押し込んだ。
そのとたんスウッと痛みが引く。
双「気休めですが、これで時間は稼げます。走りますよ!」
双葉はナツキの手を取って駆け出した。
なるべく物陰を通り身を隠しながら、本部に向かう。
走りながら見てみれば、セカンドタイプは二人を身体に見会わぬ小さな瞳で見据えている。
双「あと少し!」
だんだんと目的地が見えてきたとき。
ドカーンと砂ぼこりが舞った。
うっすらと長い腕が見える。
舞い上がった砂で、辺りはほとんど何も見えない。
突然、胸を突き飛ばされた。
飛ばされた先は草のかげ。
セカンドタイプが双葉に手を伸ばして…。
そこで視界は真っ暗になった。
気がつけば、自室のベッドの上。
しばらく状況が飲み込めなかったが、慌てて動こうとすると足を激痛が走って動けない。
ナ「双葉さん…!」
ただ双葉の無事を祈るしかなかった。
双葉といえば、セカンドタイプに詰め寄られて逃げ場をなくしていた。
ナツキを草葉の陰に突き飛ばして、セカンドタイプの視界から外したはいいが自分の逃げ場の確保が出来なかったのだ。
双「…っ」
じりじりと迫るセカンドタイプ。
急に視界が暗くなった。
それとともに強い重圧。
巨大な手で握られているのはわかるが、じたばたもがいても抜け出せそうにない。
どんどん重圧が大きくなっていく。
呼吸が苦しい。
意識も遠退く。
ああ、ここまでかなあ…。
十「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛びかけた意識を、十六夜の声が引き留めた。
ふっと重圧もなくなる。
双「げほっ…げほっげほっ!」
斎「大丈夫?双葉」
双「斎希…ちゃ…」
捺「…とにかく、遠くに」
捺波に言われ、斎希が双葉を抱えてその場を離れた。
シノミヤのいる場所まで運ぶと、そっと下ろす。
そこには神流が待機しており、着いた双葉の首筋に触れる。
神「…別状はない、平気だ。全く…」
シ「あんのドヘタレ!怪我してるくせに出てきやがってどういうつもりだよ!」
斎「良かった…向こうはどうかしら」
神「…放っておいていいだろう」
神流があきれ気味に呟き、斎希が苦笑いする。
双「?」
一方、双葉を助けた十六夜たちは戸惑っていた。
理由は。
燿「………よくも………双葉を……」
この過保護な保護者が、本気でキレているからだ。
十「…捺波、どうすべき?」
捺「…」(頭振り)
十六夜と捺波はひそひそ相談。
燿「…十六夜」
十「はいィィ!」
燿のすさまじい殺気に十六夜もたじたじだ。
燿「戻ってていいよ。…こいつは…私が制裁を下すから」
捺「…り、了解」
十「それならー、お言葉に甘えてー…」
捺十((退避!))
そして、そばにいたノアの腕をつかんで神流や斎希のいる場所へと全速力で戻った。
ノ「う?」
十「…セカンドなんとか、終了のお知らせ」
シ「あ?」
捺「…燿を、怒らせたから…」
斎「タダじゃすまないわね」
シ「はぁ?」
神「見ればわかる」
訝しげなシノミヤは、神流に言われてしぶしぶ目を向けた。
そして、納得した。
セカンドタイプは飛び交う閃光によってズタズタにされ、すでに原型を留めていなかった。
シ「…」
十「ね?」
シ「…ちっ」
シノミヤは舌打ちをしながらセカンドタイプ撃破の報告を羽柴にした。
羽「お疲れさまでした。戻ってきてください」
シ「はぁ…ったく」
ノ「あい!」
シ「ああ、頑張ったなノア」
そして、暴走した燿は十六夜と神流の連携によってなんとか確保され、めでたくセカンドタイプは殲滅された。
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