初の見本(炬渦さま)


はじめての迷惑メール



 全ての始まりは雲雀の何気ない一言からだった。
「ねぇ、君、携帯持たないの?」
「携帯ですか?」
 こうして放課後の応接室で二人が話すのは、付き合い始めてからの日課のようなもの。リボーンから無茶な課題を与えられたり、雲雀が風紀の仕事で放課後に時間を作れなかったりとさすがに毎日とはいかないが、それでも綱吉はできうる限り雲雀と二人の時間を作ろうとしていた。
 叶うことなどないだろうと諦めきっていた想いが、どんな奇跡か叶ってしまったのだ。いまだに都合のいい夢か妄想ではないかと不安に思ってしまうくらい、幸せな日々。恋人なのだからこうして二人きりでいたいというのはもちろんのこと、群れるのが嫌いな雲雀とは、獄寺や山本がいる時にはあまり一緒にいることができない。まったくないとは言わないが、大抵は獄寺が喧嘩を売るか雲雀が群れていることを嫌って咬み殺すか、とにかくまともな結果になることはほとんどない。帰宅してしまえば彼らやリボーン、ランボ達と過ごすことの多い綱吉なので、こうして放課後に会うなどしなければ雲雀との時間が中々作れないのだ。
 友達は大事だし皆で過ごす時間も楽しくて好きなのだが、もう少し恋人との時間も欲しいと思ってしまう。不満という程ではないが、最近ほんのちょっぴりだけ物足りないとも感じていた。
 そんな時に問われたことに、思わず首を傾げてしまう。確かに綱吉はまだ中学生だからということで携帯を持ってはいないが、雲雀から携帯を持たないのかなんて質問をされたのがなんだからしくない気がして不思議に感じる。
「そう。あれば連絡を取りやすくなるだろ?」
 言って一口紅茶を啜る雲雀に、綱吉は頬が熱くなるのを感じた。彼ももっと自分と話したいと、一緒にいたいと思ってくれていたのだろうか。だからこそ、携帯を持つことをすすめてくれているのだろうか。そう思うだけで胸がドキドキと高鳴った。
 彼が自分と同じ気持ちであるならば、それはとても嬉しい。孤高をむねとする人だから、こうして付き合っていてもやはり不安があるのだ。





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