セツナ襲来

 ピンポーン。

 突然の訪問者。それが来る時というのは、色々と迷惑を被る可能性が高い何かが来ていることが多い。
 そして今日もまた、その勘が外れること無く、やはり迷惑をかけられることになるのだった。



「お久しぶりです♪」

 楽しげに表情を緩ませた彼女――セツナの訪問に、迎え出た奈々は笑顔で歓迎する。

「いらっしゃい、セツナさん。旅行ですか?」
「あぁ……その……ちょっと私も良い年ですし、息子の世話になろうと思って、この並盛に……」

 これから近くにアパートを借りようと思っているのですが、先にご挨拶に。
 日本では引っ越し蕎麦が主流だろう、と引っ越し蕎麦を持ってきたらしい。

「あら、ありがとうございます」

 けれど、息子さんと離れて住むのは困るでしょう?

「幸いなことに、家には空き部屋もありますし、よろしければ家に住みませんか?」
「ぇ? 良いのですか?」
「えぇ、今まで息子と二人暮らしだったので、人が増えて賑やかになってもらえると嬉しいんです」

 他人と住むことに抵抗がなければどうぞ?
 そう言ってくれた奈々に、セツナはとても嬉しそうにコクコクと頷いた。



* * * * *



「何でここにいやがる、ママン!」

 ツナの護衛に出ていたオレが帰ってきたら、沢田家でくつろいでいる母さんを発見した。
 当分来るなと言ったはずだ。
 次に来たら正面対決させてやるからな、とも言った。
 なのに何でここに今いる!
 そんなに正面からぶつかって砕けたかったのか?

「ちょっと、お仕事引退してきたの」

 引退宣言広げてきたから、もうあっちにいる必要無いのよ。

「そうしたら、家族と余生を過ごす、っていうのが人間の人生としては正しいでしょ?」

 そう言われれば否定はできない。
 できないが、しかし、オレの今受け持っている仕事からすれば、完全に離れることができなくなるぞ、それ……

「うん、その裏事情を分かった上で、私はナギサと一緒に暮らしたかったのよ」

 だから並盛に来たの。
 そう言ったセツナの言葉に、少し頭痛を覚える。
 けれど、そろそろ引退して欲しかったのも事実なので、多くの文句は言わないことにしよう。

「……で? どこに住むんだ?」
「沢田家にお世話になることになったわ」

 さっきご挨拶に来たら、奈々さんに勧められたの。
 そうあっさり言われて、奈々さん、何を考えているんだ……と頭痛がますます酷くなる。
 そこまで広い心の持ち主で、よく今まで無事だった……
 いや、無事じゃなかったんだよな。
 極一般的な女性なのに、マフィア関係の男に引っかかるというのは悪い事態だし、息子がマフィアのボスになりそうだっていうのも悪い事態だろう。
 うん、これは仕方ない事態なのかもしれない……

「んで? ここで何をするんだ?」
「何だったらツナ君の修行のお手伝いしましょうか?」

 だいたいのことなら何でもできるわよ?

「変装でも教えてあげようかしら……?」
「あぁ、それもいいかもな」

 手っ取り早く、ツナを女装させて町内一周して、そこで会ったら京子と友達になってこい、とかやらせたら楽しそうだよなぁ……

 そんな考えを読み取ったのか、母さんが頷く。

「それいいじゃない。それじゃ、早速今日から変装の授業を始めようかしら?」

 ふふ、と楽しげに笑う母さんに、ツナの変装スキルゲットのための授業の始まりは今日から、と決まったようである。



 まぁ、慣れれば便利だぜ、お前も頑張れよ?

 くくっ、と今まで自分が苦労してきたことを思い返してツナにエールを送っておいた。



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