200番 1

 ピンポーン。

 不吉な訪いの合図は、とっても軽快なチャイムの音だった。



「はいは〜い」

 どちらさまー? と玄関に向かう奈々ママンを見送りエスプレッソを口に――

「ナギサ〜♪」

 全力で抱き着かれて、ブッと噴き出してしまった。

「ん、んなっ、何でここに……」
「ナギサと遊ぼうと思ったのに、いないんだもの」

 マスターはジャポンとしか教えてくれないし、数年振りに会ってしまったじゃない。

「会いたくなかったのに……」

 ムクれている姿はとてつもなく可愛いが、しかし、何歳だと思っているんだ。

「セツナ……大人として心に決着付けておけよな」
「やぁ、なんで名前で呼ぶの?」

 生意気よ! と額をコツンと叩かれる。

「はいはい、すまんね」

 しかし、九代目に会いたくないだけで、かなり融通してもらっているのに会わないのはどうかと思う。
 事情を知っているがために強くは言えないが。

「ママン、なんで来た?」
「息子がお世話になっている家にご挨拶くらいしないとダメでしょ?」

 いつもナギサがお世話になっています。

「ナギサの母のセツナです」

 ペコリと下げる頭に、奈々ママンもツナも唖然とした表情だけを向けた。


 気持ちはわかるぜ?
 見た目年齢が若すぎるって言いたいんだろ?
 知ってる知ってる。

「えぇ〜!? ナギサの母さん!?」

 わっか! と叫ぶツナ。
 でもな……

「ママンは還暦過ぎてんぞ?」
「マジで!?」

 ま、実年齢まで聞いたら化け物にしか思えないよな。

「オレの変装スキルはママン仕込みだ」

 と言えばわかるよな?
 こんな赤ん坊の姿でも、どんなものにも化けられる能力だからな。
 母さんも同じだと思え。

 しかし、これは化けてるわけでも何でも無いがな。


「ナギサったら、酷い!」
「ママンは若くて美人なのは確かだから落ち着いて」

 年齢さえ考えなければ誰でも引っ掛かるって。

「……ぁ、九代目悩殺してないよな?」
「知らな〜い。見慣れてるでしょ、多分」

 ……頭痛い。
 子供に迷惑かけるなよな、いい年して。



「久しぶりの親子対面で積もる話もあるでしょう?」

 お時間があるなら泊まっていくといいわ!

「セツナさん、どうかしら?」
「ありがとうございます、奈々さん」

 泊まる気満々だよな。
 どうせ仕事は引き受けてない時期だろうからいいけど。

 ――ってか、そろそろ引退考えてほしい。

 もう定年退職の年齢だし、母さんくらい養うのに。


「それなら客間へどうぞ」

 お荷物でもあるならツー君に持たせますし。

「助かります」

 ツナに手渡したバッグには大量に銃器が入っているから重い。
 それくらいなら何とかなるだろうと目測の重量に頷き移動した。




「ツー君、お茶〜」

 という声に呼ばれてツナは台所へ。

「ママン?」

 抱き着いてきたセツナに疑問の声を上げるが、全く反応を返さない。
 抱き付いたまま固まっているのを見れば、何となく察せられる。
 宥めるように背中を軽く叩くとホッとしたように息を吐いている。
 やっぱりまだ会うのは早かったか。
 とっとと何とかしてほしいんだが。
 はぁ、と吐いた溜息にも反応を返す母さん。

「オレを精神安定剤にしなくて済む程度に元気になりなよ」

 それまでは抱きしめられておいてあげるから。
 人前だと普段通りにやっていられそうだからいいけどな。



 ――とお茶を持って戻ってきたツナが抱きしめられているオレにビクついている。

 そんなにビビることねぇだろ?


「ツナ、そこ違う」
 宿題を片付けるツナを見る。
 一応かてきょーなんで?
 それくらいはするよ!

 ――母さんの膝の上だけど。



「ん? こう?」
「そうそう」

 できないわけじゃ無いのに、やる気が無いが故のダメツナ。
 ペースさえ間違わなければ理解はできる。
 まぁ、妙な所はすぐに理解して、分からない所は教え方を考えないと無理だから、学校教育じゃ無理なんだよな。
 家庭教師を付けて正解だな。


「意外とナギサ勉強できたのね……」
「ママン、これでも大学教授の資格取ってあるんだが……」
「あぁ、そういえば楽しそうに大学通ってた時あったわよね」

 ちょっとまともに初等教育受けてなかったからな……その分、大学は楽しかったよ。

「数学が好きだったし、法則も見付けたのに」

 猫じゃらしの法則、な。


「あ〜、もうやだ!」

 また詰まったようだな。
 応用もきかないんだよな、もっと反復練習させるべきか?
 中学レベルの数学程度は覚えていて損は無いし。

「何が分からない?」
「これ……」
「教科書は?」
「ぅ……」

 こりゃ学校に置いてきたな。

「仕方ないな」

 口頭で数式を言って書き取らせる。

「計算してみろ」
「は〜い」

 大人しくプリントに向かうのを見ながら、予定を立てる。
 飴と鞭が一番かな?
 そんなことを思ったのが分かったのが、肩を揺らす。

「宿題はそれだけか?」
「うん」
「せっかく解いたのに忘れるなよ?」
「わかってるよ!」

 鞄に突っ込むのを笑ってから、母さんの腕を叩く。

「居間に行こう、そろそろ夕食時間だ」
「そうなの。なら……」

 抱き上げなくてよろしい!
 言っても無駄だから大人しくしてるけど、本当にぬいぐるみか何かになった気分だな……



長くなったので分ける。

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