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その2
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「なぁ、ロマーリオ」
キャバッローネの本部の中にある、バーカウンターに座ったナギサは、隣に座るロマーリオに話しかけた。
喉が渇いた、とそのカウンターで寝酒をちびりちびりと口にしていたロマーリオに付き合い、ナギサも酒を口にしていた。
「なんだ、ナギサ」
「オレの家庭教師はあいつがマフィアのボスとしてやっていけるようになるまで、なんでそこまで気にしなくていいと思ってるんだけどな……」
「どうしたんだ?」
はっきり言わないナギサさんなんて珍しい、とばかりにロマーリオは話の続きを促した。
「あいつ、好きな奴とかいないのか? あんなに女っ気無いまんまで大丈夫かよ」
「あぁ…………うちのボスは初恋を引き摺ってるんだよ……」
「初恋?」
どういうこった? と尋ねたナギサに、ロマーリオは当時の話を話し始めた。
* * * * * 今から何年も前。
ディーノが5歳くらいの幼少時の話である。
「ろまーりおー、あれ! あれが欲しい!!」
「坊ちゃん、走らないで!」
慌ててロマーリオは駆けるディーノを追いかける。
男の子が好きそうなロボットの玩具を欲しがるディーノを微笑ましく思いながら、ロマーリオは付いていく。
「早く、早く!」
レジに向かって駆けていくディーノは玩具を持ったまま、何も無い場所で躓いた。
よく転び、よく泣く、そんな子供であったディーノに、慌てて近寄ろうとした時、足下で転ばれた女性が屈んで手を差し伸べた。
「男の子がそんなことで泣いちゃダメよ」
ふわりと翻ったスカートの裾は上品な白色。
差し伸べられた手は白魚のように美しく……その割に料理をするのか、固そうでもある。
「ぅ……」
涙を飲み込もうと、うぐうぐとすすり上げるようにしているディーノに彼女は白いレースのハンカチで顔を拭い、起き上がらせた。
「好きな女の子を守るために、男の子は強くなきゃダメなんだぞ?」
わかった? と軽く頬をつねった後、彼女は立ち上がった。
「すみません、おせっかいなことをしてしまって……」
「いえ、ありがとうございました」
私ではこんなに簡単に泣き止ませることができなかったでしょうから。
「助かりました」
「ありがとう。それじゃ、強くなるのよ?」
フフ、と笑って手を振る彼女に、ディーノは慌ててスカートの裾を引っ張り引き留める。
「お姉さんの名前は!?」
「あぁ……ナギサよ」
少しの間の後に答えられたその名前を何度も呟くようにして覚えた! とディーノは声を上げ。
「またな! ナギサお姉ちゃん」
「えぇ、また」
軽く手を振って彼女は去っていった。
* * * * *「それきり二度と会っていない初恋の女性が忘れられないんですよ、ボスは」
ん? そういえば、ナギサさんと同じ名前でしたね。
「まぁ、よくある名前だろうしな……」
と口にしながら、ナギサは冷や汗をかいていた。
ちょっと待て、それ、何となく覚えあるぞ……
確か……
* * * * *「ナギサ〜♪ 変装デートしましょ〜v」
「何で変装? ママン一人で行けばいいだろう?」
「いやぁ、ナギサと遊びに行きたいの!」
ほら、これ着て、これ!
「ちょっと待て。何で女物?」
「私が直々に教え込んだんだから、女装だって何だってどんとこい! でしょ?」
いいじゃない、今日は、姉妹のお出かけ、がコンセプトよ!
「レディース限定の喫茶店でケーキ食べましょ!」
あぁ、それが目当てなのか、と納得して溜息と共にその服に身を包んだ。
薄いブルーと白の色使いが上品な、レース調のワンピース。
ちょっとしたホテルならこれで入っても問題無い、ドレスコードに引っかかる程度の洋服。
それに合わせて上品系統の化粧をして、カツラをかぶった。
色んな色があるが、母さんは白に近い銀髪だし、銀か金だよなぁ……
そんなことを思いながら選んだカツラは母さんの好みに合ったらしい。
「流石ナギサ! さ、行きましょうv」
どこまでも楽しげな母さんに引き摺られるように町中へと飛び込んだ。
喫茶店でケーキを食べ終わり、母さんがついでに買い物をしていくと言うので付いて歩いていた。
そんな時に母さんがレジに行って一人だった時、目の前で転んでしまって泣き出してしまう少年と出会った。
保護者が近くにいるだろうが、泣き始めた時に傍にいなかったので、手を伸ばして泣くな、と声をかけた。
こちらに見惚れたように見てくる少年の涙が止まってホッとしてその場を後にしようとした時、少年に名前を尋ねられた。
偽名を答えるか少し悩んで、別にナギサならよくある名前だし、とそのまま答えて去った。
直後、合流した母さんに、可愛いジェントルマンを落とすなんて、男泣かせねぇ、などと言われた。
色々と間違っている! と突っ込み、さっさと帰って着替えた。
* * * * * そうそう、こんなことがあったんだよなぁ……
って、ちょっと待て! つまりはディーノの初恋の人って…………
オレ!?
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