「お、美味しい!!!」

 一口、口に運んで、母さんの瞳はキラキラ輝いた。
 そうだな、奈々ママンの料理はとっても美味いからな。
 そんじょそこらの料理店なんか目じゃないよな。

 だけど、もう少しゆっくり食え。
 バキュームカーのように掻っ込むなんて、カッコワルイにも程がある。


「凄いですね、奈々さん!」
「そこまで喜んでくれるなら、作り甲斐があるわ」

 満面の笑みで絶賛する気持ちはわかるが、マジで落ち着け。

「お代わりしても良いですか?」
「どうぞ」

 受け取った皿におかずを載せて戻ってくる。
 恥ずかしいな、もう。

 そんなことをしている内に夕食は終わった。



 温泉好きで日本大好きな母さんに入浴での問題は無く、その日は無事に終わりを告げた。



 寝坊しかけたツナを起こしたのが母さんであること以外は特に日常と変化は無い。
 ツナはオレの銃声での目覚ましは母さん譲りだと知ったことだろう。




「……ママン、帰らないのか?」

 翌日、昼近くなっても離してくれない母さんに尋ねた。
 昨日、温泉に寄ったら帰ると言っていたのに。

「や。帰りたくない」

 ぎゅうと締め付けるのは何故だ?


「お昼ご飯よ〜」

 そんな奈々ママンの声に嬉々として立ち上がる様子を見れば、わかるだろう。

「ママン……」

 呆れたように溜息を吐いてやれば、慌てたように弁解し始める。

「だだだって、美味しいんだもの!」

 やだ、この家に住みたい!


 言い出す内容を分かっていても、これは嫌だな。

「もっと料理練習しろよ」

 レトルトばっかじゃなくて。

「外食も程々にな」

 母さん料理苦手なんだよな。
 奈々ママンの料理の腕があまりにも良すぎて、母さんは帰りたくなくなったらしい。
 けど、いい加減にしろよな。

「早く食え」
「……っ、ナギサ?」

 怒りの気配にセツナはビクリと反応する。

「送ってやる」

 空港まででいいよな?
 なんだったら、イタリアまで送ってもいいぞ。
 ついでに決着着けるまで二人きりになるように閉じ込めてやろうか?

「ナギサ君、お、怒っちゃ嫌よ?」
「怒らせてるの、ママンだからな?」

 コクコクと頷きながら、セツナは立ち上がった。




「お、お邪魔しました」

 帰らないといけないのか、と落ち込む様子の母さん。
 迷惑だろう、もう。

「いえ、大丈夫ですよ」

 また来て下さいね。

「ありがとうございます」

 社交辞令を真に受けはしないだろうが、それをいいことにまた来そうではあるな。



「マスターに言っておくから、当分こっち来るなよ?」
「わ、わかってるわよ〜!」

 もう、帰りたくないわ。
 そう言いながら歩く母さんに苦笑をしてしまう。

「たまには来ても大丈夫だろ」

 たまに、だぞ?
 奈々ママンから飛行機の中ででも摘んでほしいと渡されたクッキーを手渡してやった。

「ナギサ〜……」
「はいはい、泣かない」

 一回、後始末とかのためにイタリア戻るべきかもな。
 母さんに決着付けてもらうために……

「また、な」
「うん、元気でね」

 もう吹っ切れたのか、手を振って母さんは飛行場の中へと入っていった。





200番リクありがとうございました!!
こちらの小説はゆんゆんさまに捧げます。
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