7.
君のおかげだよ、と彼は笑う。
あの下駄箱での告白の折、彼の悩みは多少なりとも消えたみたいだった。
恋人同士になったからかもしれないし、話している内にすっきりしたこともあったのかもしれない。
そのあとに「付き合ってください」と言ってくれた彼の顔は最高にかっこよかった。
惚気だ。この先誰に言うつもりもないから許してほしい。
「それにしてもそのチョコさ、やっぱり返して」
「……はあ?」
「どこから出したその無表情」
「だってせっかくくれたのに!!」
「コンビに寄ったついでの品だからよく考えたらすごくひどい彼女みたいじゃない!! 私が嫌だから一旦返してよ」
「嫌だよ彼女に貰った初めてのプレゼントだよ? 本命の!! 本命からの!! 初めての!!」
「言われるほどそのシールが胸に突き刺さる!!」
「これがおれ達だからいいんだよ!!」
「それが嫌なのでホワイトデーにやり直しさせてください」
「ホワイトデーにはとっておきのお返しをしたいので諦めてください」
「なんでよおお」
ここまで、彼に飛び掛かりながら交渉していたけど、とうとう力尽きて膝から崩れ落ちた。彼は両手を空に突き出してチョコを掲げている。夕焼け空がまぶしい。
「だって君が教えてくれたんだもん」
助け起こされて、それまで笑っていた彼がふと、ふざけた空気を霧散していく。
「おれの好きでいいって。だったらおれも、君の好きをもっと好きになるよ」
好きって何だろう。
彼の問いかけが頭を、心を揺さぶっていたのに。
ああ、これが好きってことなんだと思い知らされる。
さあ、もう帰ろう。
私の好きも、君の好きも、誰かの好きも、きっと明日にはもっとくっきり境が見えてくるはずだから。
2017.02.26 end
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