2.


「お返し?」
「うん。ちゅー以外ならやりたいこと全部して返した。でも、交際を行ってるってかんじ」
「こうさいをおこなっている?」
「義務みたいな」
「ああ、なるほど。ひどい」
「そうだよなあ……」

 ため息混じりにそう言って項垂れた彼が小さく見える。
 頭一つ分の身長差が縮まって、なんとなく空いている方の手でその髪を撫でた。
 男の子だから嫌がるかと思ったら、ぴくりとしたきり反応がない。俯いたまま、

「彼女に言ったんだよ。今言ったこと」
「……。どれ」
「義務みたいな気持ちでお付き合いしてましたごめんなさいって」
「言い方考えろよ。包まなすぎるわそれ」
「ひどいっていわれた」
「でしょうね」
「でも全然良心が痛まなかった」
「ひどいね」
「……」
「……。その急に黙るのやめて」

 手首をつかんでいたのがするっと降りて、手のひらが合わさって、指が絡む。大きさと感触の違いに驚いて手を引っ込めかけたけど、寸前でやめた。なんだかこっちも弱々しい。

「好きってもっと、こう、ふわふわしてるのかと思ってた」
「へえ」
「特に女子っぽい女子と過ごしてたらそうなると思ってたのに」
「はあ」
「だんだんイライラしてきて」
「どうしたいきなり」
「好きっていうのは付き合って一緒にいるのが好きってことだと思ってたのに全然違った」
「哲学みたいな流れだね」
「女子が好きそうなつかず離れずっていうのもやってみたけど駄目だった。いらついた」
「そっか」
「だって現実そんな上手くいくわけないし、つかず離れずを実際にやってみたらどんどん離れていくし、クラス別だからそこでそっちは上手くやっていくからさ」
「は?」
「そしたら虚しくなった」

 零された言葉が渦を巻いて胸の真ん中に集まってくる。
 手のひらは重なったまま。指も絡んだまま。彼の頭には私の手が乗っていたけど、顔が上がって滑り落ちた。
 ねえ、と彼は囁く。

「きれいなあの子よりもこっちの方が、ずっとどきどきするんだけど、なんでだろう?」




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