1.

「好きって、なんだろうね」

 二年春。学校の昇降口。
クラスが変わって以来話すことが前よりは減った幼馴染と下駄箱で鉢合わせて、なんだか懐かしくて、その場で今日あったこととか、先生の愚痴とかを話していて、さて帰ろうかとした時、急に彼がそう口にしたのだ。
 かちり、と二人の時間が止まる。

「あんた彼女いたよね? 同じクラスの……」

 うんと力を込めてその時間を動かせば、彼は彼自身が重々しく告げたさっきの言葉をまだ引きずっていて、

「うん」

 とひとつ零して黙ったかと思ったら、つらつらとこう言った。

「すごくきれいな子だよ。こっちとはちがって」
「いますごく余計なこと言った」
「ごめん」
「許す。それで?」
「おれとお菓子分け合いっこしてくれたり、連絡こまめにくれたり、記念日には一緒に遠くに出かけたり、テストの時は家で一緒に勉強だってした」
「うん」
「ちゅーはまだしてない」
「それいらない。付き合って何カ月?」
「半年」
「遅いね」
「うん」
「それで?」
「別れた」
「は?」
「別れた」

 ここで滞る。その気まずい会話の途切れに、手にしていた外靴を床に意味もなく落とした。拾って時間を動かしたかった。

「別れたよ」

 それなのに、とても真っ直ぐに私を見つめて彼が繰り返すから、私もそれに応えなくちゃいけないような気がして、これを無視したらなんだか取り返しのつかないことになるような気がして、見つめ返した。

「いい彼女だった」

 彼は寂しそうに言う。

「おれには勿体ないくらい、いい彼女だった」
「じゃあなんで別れたの」
「言ったじゃん。勿体ないって」

 小さく笑って答えた彼の声は弱い。泣きそうで、切なそうで、それでもどこかさっぱりとしている。それに違和感を覚えても、口に出す前に彼も靴を床に落とした。
 咄嗟に取ろうとして、伸ばした手を掴まれる。
 ……掴まれる?

「なに」
「……」
「何か言ってよ」
「……。おれは、あの子にいろいろお返ししたんだ」


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