『――。』


 私の他の断片がいま、しゃらしゃらと綺麗な音を立てて塵になった。
 ああ……もう、なくなってしまったのだ。
 わたしもかれも、ぜんぶ。

 終わり際に掴み損ねた思い出には、彼のさいごがあった。
 ああ、終ぞ見なかった。
 彼は最後まで彼だったのだ。


――なんだよ、また独りだよ。


 地面に近い場所。
 抱き起こされるような体勢だった私の腕に、私を支える彼の手が、とても痛くて。
 呼吸もままならずに、何も言えずにいる私はそのとき、息を感じるほど近くで、彼がそう笑った気がした。
 その顔はどこまでも澄んでいて。
 まるで空のようで。
 私はその時それを見上げていた。

 記憶をたぐり寄せるように、私は私の手のひらを握り、次に私の頬にあてる。
 どれも思い描いた感覚のようにはいかなくて、少々の物足りなさを感じたものの、諦めはついていた。




「さよなら『――』。」


 きっとこれで、踏み出すのは最後。
 私は、とある真っ白な世界の、とある真っ白な場所で、そこへ来て初めて微笑むと、ざらりと砂になって消えた。






2013/11/16 了

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