2.
にやにやしながらドアを開いて、後ろ手で閉める。
カチャンと音をたてたドアに背中を預けると、それっきり、僕の回りは驚くほど静やかになってしまう。
黙り込んだ僕の耳には、もうクラスメイト達の笑い声も遠ざかって、車の走行音なんかに混ざって、溶けていって、どれが誰の声かも分からなくなってしまっていた。
ため息が重たく漏れる。
鞄が肩からずり落ちる。
そして、騒音も馴染んだ声も、小気味がいいくらい、どれも一緒になる……。
ドアを閉めてすぐに引きはがした笑顔は、どこにもない。
僕は、微笑みすぎていた顔から、いっそ筋肉が流れ落ちるんじゃないかと勘違いしてしまいそうになるくらい力を抜いた。
玄関に突っ立って、ぼんやりと外の音に聞き耳を立てて、玄関と廊下の境にある段差に視線を落とす。
狭い玄関には、母がガレージまで行くのに使ってる突っかけがあるっきりで、他に靴は並んでいない。
ふっと思い出したように「ただいま」と、いっそ開かなければよかったくらい虚ろな声を口にしても、返ってくる言葉もない。
それはそうだ。
そう納得しながらも、それならどうして口にしたのかが自分でも分からないまま、僕は自分が生み出した、余計なもやもや感に包まれて、靴を脱いだ。
家の中は静かだ。
赤く染まる間際の夕方の、外の光に、リビングと、篭った空気ですらも照らされて見えて、僕は換気の為に庭に繋がる窓を開ける。
ぶわっと風が入ってきた。
部屋に充満していた馴染む香りが、全部まぜこぜになる。
しばらくほうけたまま、風に髪や服を好きなようにさせていたけど、やがて込み上げてきた感覚にふらりと足を動かすと、衝動の赴くままに脱衣所まで向かった。
脱衣所を抜ける。
バスルームに入る。
湿気が篭ってむわりとしている。
踏み込めば靴下の裏が濡れる。
けど、それどころじゃない。
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