1.
孤独で満たした地獄があるというなら、きっと僕がいる、今の日常がそれだろう。
そんなことを思いながら、僕はじっと手首を見つめる。
カミソリを持って。
「もうお前林と結婚しちゃえよ!」
いつものような下校途中。
仲のいいクラスメイトと、ひょんなことからクラスの女子の話になって、僕はそいつをそう茶化した。
便乗して他の奴もわいわい口を開きはじめて、話題に挙げられたそいつは、まんざらでもないような顔で、だけどそれをごまかすように「お前らふざけんなよ!」と喚く。
そうして腹を抱えて笑いながら、僕たちは帰路につく。
よくある話だ。
笑う話なんて、他人を引き合いに出したら大抵盛り上がる。
意地悪な話なら尚さらだ。
「じゃ、おれここだから」
通り過ぎる家並みから漂う、夕ごはんの香りをいくつもくぐり抜けて。
そうして、ひとしきり喋りながら足を動かしていると、家の前に着いていた。
今日の冷やかし役だった僕は、そのままの勢いを持ったまま、クラスメイト達に軽く手を挙げて「また明日」と叫んで、門を開き、家の扉に小走りで寄る。
途中、挨拶の余韻がいくつか背中に返ってきて、それに最後に一声だけ返すと、ようやく僕は家に入ることを許された。
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