2.
「つーか、なんで素麺? 他の時は出ねーの?」
「それが出ないんスよねー……。素麺になんか恨みでもあるんですかね?」
「知らねーよ」
「先輩、今日うち来てくださいよ」
「は?」
「そんで素麺食ってください」
ナイス、アイデア。
そんな文字が後輩の顔に書かれてるように見えた。
おい……おいちょっとまて。
「てめー……俺を餌に使おうとしてやがるか? あ?」
「後輩が困ってるんです先輩助けてください一大事なんですよ」
「こっち見て言え!!」
ぐるんと余所を向いて早口で言う奴に怒鳴るけど、メロンパンを食いに走りはじめる。
だから……こぼし過ぎだろお前!!
始めから協力する気は毛頭ないから、息を一気に吸って言い放った。
「ならその素麺男に一回素麺食わせろよッ!! なんか変わるかもしれねーだろッ!!」
「はあ!? なんでオレがユーレイにあーんしなきゃいけないんスかッ!?」
「こだわるのそこかッ!!」
「彼女にもしてもらえなかったのにッ!! オレ、初めてのあーんは彼女とするって決めてんのに!!」
「やだお前ホントきもい!! 心配しなくても初めてのあーんはとっくにてめーの母ちゃんが奪ってんだろーがッ!!」
「きもいってなんですかッ!! あーんは男のロマンですよ!? 深めCカップの美少女的彼女がいる先輩なら絶対分かってくれるでしょッ!?」
「分かるかッ!! 大体なんでお前が俺の彼女の乳のカップ知ってんだよ!!」
「本人に聞きました!!」
「黙れこの変態!! ……。あれ?」
「は……あれ?」
互いにぜーぜー言いながら言葉を切って、ふと我に返る。
「……。おい、素麺の話どこいった」
「あーもーッ先輩がユーレイにあーんしろなんて言うからッ!! どうすんですか、もう昼休み終わっちゃいますよ!?」
「お前がそっちに話持ってったからだろうが!! とりあえず、今日は部活ねえから直帰して素麺ッ!! できるまで部活来んの禁止なッ!!」
「じゃあ先輩があーんして……!!」
「するかボケ!! 俺は絶対行かねーからな。行かねーからな! 行かねーからな!!」
「先輩くどッ!!」
「うるせーッとにかく実行、報告!! 明日部活ん時に聞くからレポートにまとめて俺に提出!! 分かったな!!」
そんなこんなで、その後も素麺男に素麺を食わせる方向でしばらく、後輩と論争を繰り広げていたわけだけど、結局は口と凄みで後輩に快勝。
始業ベルが鳴り響く中、悲痛な叫びを上げる後輩に背を向けて、その日を終えた。
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