3.

――
―――

 翌日の放課後。
 日が暮れるのが早くなって、部室は4時を回った現在、真っ赤な夕焼け色に染まっていた。
 少ない後輩達がギターや音響機器を調節したりする中で、俺は例の変態後輩を顧問室に呼び出して、結果報告を促したのだが……。


「で? お前んちの素麺事情ってどうなった?」

 尋ねると、ルーズリーフの一枚を握って、入り口近くで気まずそうにしてたあいつは、まるで怒られた小学生みたいな顔をして「実は」と言い出した。


「素麺男に素麺を食べさせるっていうかなんていうか……そういうのには至ったんですけどー……。家族会議が開かれまして」

「は? 家族会議? 意味わかんねーし。なにそれ何があった?」

「いや、ちょっとしたイベント中止についての家族会議がですね」

「中止って……素麺男退治イベント?」

「いや。うちの小学二年生の妹のバースデーイベントです」

「……。はああああああッ!?」

 おにいちゃーん。
 いつだったか、野暮用で寄ったこいつの家で、こいつに無邪気に甘えてた妹ちゃんの声が、記憶の彼方で蘇った気がした。
 瞬間、混乱の中でこいつに殺意が湧く。


「ちょっえっハァ!? 何、お前バカ!? 歯ァ食いしばれ泣いても殴るッ!!」

「怖ッ!! ちょっだって!! 先輩が今日中にレポートまとめろってゆーから!!」

「そういう訳なら言わんわバカヤロオオオッ!! つーか人の彼女の乳の話とか、あーんの話するより先に、まずそれ話せしッ!!」

「あのねっ……例え血を分けた兄弟でも譲れないものはあるでしょうがッ!!」

 駄目だ。
 思ってた以上に後輩が駄目駄目人間だった。
 険しくした顔面で力のかぎりそう豪語したこいつに、自分の限界を俺は見てしまった。

 妹ちゃん、すまん。
 俺が不甲斐ないばっかりに、年に一度きりのバースデーをおじゃんに……!!


「じゃあ何か? 妹が泣き叫ぶ中お前は素麺を用意して空気に素麺を食わせてたわけか?」

「失敬な!! オレそんなひどい人間じゃないです!!」

「十分鬼畜でぶっ飛びすぎとるわッ!! じゃあ素麺男はどうなったんだよ、素麺男は!!」

「お母さんがあーんしました!!」

「ハアアアアアアア!?」


 ちょっとだれかこいつのネジ走って持ってこい!!


「お前以外に素麺男は見えねーんじゃなかったのかよ!?」

「だから!! 手探りで口に運んだんですってば!!」

「てばじゃねーし触れねーだろユーレイだから!! 端からみたらエアースイカ割りじゃねーか!!」

「そんな感じです!! 先輩頭いい!!」

「お前素麺で首吊ってこいそして帰ってくるな!!」



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