1.


「あ? なんつった?」

「いえ、だから、素麺おとこがオレの家に出てくるんですってば」

 昼休みの時、後輩のいる教室まで部活中止の連絡をしに行って、そのままだべってたら、その後輩がいきなりそんなことを言い出した。


「……そーめん、おとこ?」

 聞き間違いじゃないらしい。
 今度はうさん臭いオーラ全開で聞き返すと、そいつは説明を始めた。


「素麺食ったら出てくるんですよ。それこそ春夏秋冬問わず。目の前でぶらぶらされていい加減困ってるんスよねー。素麺ってほら、年中手軽に食えるっしょ? それが毎度そんなんされたら、食う気失せるっつーかなんつーか……」

「なんじゃそりゃ。お祭り男みてーなもん?」

「いや、ただの首吊って死んだ男」

「ブボフゥッ!!」


 思いもよらない言葉に、飲んでいたパックの紅茶を噴くと、途端に後輩が「先輩キタネー!!」と騒ぎ出す。

 うるせえ黙れ。
 全力で黙れ。
 女子が見てるだろ、黙れ。

 ギッと睨むと後輩は小さく悲鳴をあげたきり黙り込んだから、俺はぶちまけた紅茶をティッシュで拭きながら「お前さあ」と話を戻した。


「それってつまりあれじゃね? ユーレイってやつ」

「だから困ってるんですってば。しかもヤローですよ? どっかのエロ本みたいに美女ユーレイじゃなくて、ガリッガリのガチヤローユーレイですよ? 食欲失せちゃいますから。繰り返しますけど、美女じゃありませんから」

「だから黙れよお前」

 なんでそこでエロ本引っ張り出すんだよ。
 どんだけ欲求不満なんだよ。
 てかお前彼女いたんじゃなかったのかよ。
 てか――俺を見る女子達の目が段々荒んできてるから、いい加減そういう発言やめろし。
 なんか俺がエロい美女幽霊が欲しいみたいになってきてんじゃねえか。やめろし。


「今の家に越したのって、去年だっけ?」

「ですです。ばあちゃんが死んで、じいちゃんだけになったんで、家族みんなで住もうって話になって」

「んで、出ると」

「飯食うとこに」

「……。家族はなんも言わねーの?」

「だってみんな見えてないですもん。オレだけっスよ。素麺を俯きがちに食べてんの」

「お前は普段からもうちょっと飯見ながら食ったほうがいいと思う」

 メロンパンをさっきからこぼしまくってる後輩を見て、そう指摘すると「それじゃあ何かあった時にツッコミ入れられない」とドヤ顔で姿勢を正しやがった。

 いや、毎度ツッコミ入れてんのは周囲だから。



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