5.


「よくわかんないけど、人にのめり込めないっていうか」

「うん」

「馴染むのに、必死っていうか」

「うん」

「好きなはずなのに、嫌いじゃないはずなのに、ずっと一緒になれないの。……楽しい時も悲しい時も、そう思えないの」

「……うん」

「変だよね。気持ちとかさ、共有することが出来ないって、おかしいよね。気づいてたなら、気持ち悪かったでしょ?」


 穏やかに相槌をくれていた彼女は、もう外を見てなかった。
 負い目みたいなものがあって、逸らしたいのに、わたしも彼女をじっと見てる。
 それがたまらなく怖かった。
 怖いけど、逸らした方が怖いと思った。
 だから、逸らしてくれたらいい。
 君がその目を逸らしてくれたら、わたしも全部ごまかせるのに。

「すきだよ」

 ごまかせるのに。
 逃げを打つわたしに、彼女はなんの躊躇いもなく、そう告げた。

「だって玲希ちゃん、そのくらい人が好きなんでしょ? 本当はだれよりも、お別れが怖いんだよね。だから、わたしはすきだよ。玲希ちゃんのこと」

「……」

「雨、弱くなったね。行こうか」


 わたしには、別れの時に走る痛みがない。
 ずっと、ない。


「うん」


 だからそれを知られたら、そんなことになったら……。
 怖かった。
 そう思えば思うほど怖くて、深みに嵌まっていくみたいだった。
 それなのに、怒らないの?
 許してくれるの?


「玲希ちゃん」

 返事をしても動かないままでいるわたしに、彼女はいつもよりずっと柔らかく笑って、手を差し出していた。


「行こう」

「……うん」


 この先誰と別れることがあっても、痛みを感じたくはない。
 わたしは弱いから、きっとこの距離感からはずっと抜け出せないだろう。
 だけどせめて。
 せめて彼女と別れることがあったら、そんな日が来たら、いくらでも痛い思いをしたい。
 ぎこちなく口元を上げて、私は返した。



「帰ろうか。――ちゃん」



去り際にこんにちは 了



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