8.
「解りづらいか。クラスの奴と比べてみろよ。自分でもいい。誰かと合わせようとして、合わなくて、それでも笑ってまだ合わせようとしてる。誰かと一緒にいることって、そういうことかもしれねえけど、そういうことじゃねえよ。俺は、自分のペースも出して初めて成り立つし、決めた軸を流されながらでもしっかり留めるのが『自分がある』って事だと思うし、見苦しくもない、煩くもない群れだと思ってる」
そこで一呼吸おいて、
「進む進まないも似たようなもんで、それよりも先に何が残るかが俺には大事。何かが残るっていうのは、それだけ自分が留まることができたってわけだろ」
その言葉に、ぐさりと胸が痛んだ気がした。
「そうですね」
自分の心の中で、足と手が生えてばたつく。
それを押さえながら、わたしは少しだけ彼の画用紙を覗くそぶりをした。
「そういえば、お兄さんその絵はどのくらい前から描いてるんですか?」
「あ? ああ、夏休み入ってから。部活の課題なんだよ。婆ちゃん家がここで、毎年ここで描いてる。外は、うるせえから」
「じゃあ期限が……」
「まあな。けど、いくらなんでも期限は守るよ、俺」
それに少し、二人して笑う。
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