7.


 蝉が一匹、この部屋の近くにとまったらしい。
 けたたましい鳴き声が、じわじわと聞こえ始める。
 わたしの目線は、男の人に向けたまま。
 何故かわたしは、彼を見るとも無しに見ていた。



「そのくらいがちょうどいいよな」

 唐突に、彼が口を利いた。
 まるで今まで会話をしていたかのような出だしだったものだから、わたしの反応も遅れて、返した言葉も言葉にならず、ただの意味を成さない声になってしまった。
 けど彼は言う。


「一時だけ、うるせえのがいい。静かすぎるのは気が滅入るし、だからって四六時中だれかがうごめいてる音がするのも好かねえんだよな、俺」

 その調子で静かにしていてくれ、と言われているのか、それともわたしの恥を悟ってフォローしてくれているのか。
 わたしにはもう解らない。
 首を捻っていると、彼は相変わらず一瞥をくれないまま、こう続けた。


「人ってなんかごみごみしてんだろ? 群れる事自体は別に、俺もするから文句はねえけど、それのせいで目的見失なって、軸足ぶれたまんま歩いてるの見てると、それは好きじゃねえんだよ。見た目にもそれが目についてくるし、そうなると声や発言にも滲んでくる。だから、この時期はここでカンヅメしてるわけなんだな」

「お兄さんは」

 言いかけて、言葉を少し止める。
 いい加減なことを今、言ってはいけない気がしたのかもしれない。


「他人が嫌いなんですか?」

「……覚束ねえ人が嫌い。あとは好き」

「基準は?」

「さっき進む進まないの話してただろ」


 聞かれて、ちょっとだけ複雑な気持ちになって頷いた。


「自分がないのに、ただせかせかしてるだけの人って、嫌じゃねえ? 頼りもねえし、それで勝手にこけて泣かれてもシラケねえか?」

「まあ、はい」



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