6.


 止めた鉛筆の芯の先を見つめているようで、息を殺しているようにも見えた。
 それが、言葉と共にまた動き出す。


「ただ描きてえもの探すのに理由とかいるのかよ。描きてえから描いてんのによ」

 サリサリと乾いた音が静やかに流れる。
 その音のように彼が返した答えには、ぶれがなかった。


「……。でもそれで描いて、進みます?」

「……」

「わたしは絵のことはよく知らないですけど、いくら描きたいから描いてるって言っても、それで先に進めないなら、意味ないじゃないですか。他の描きたいものが、いつまでも描けなくなりません?」


 男の人は口を利かない。
 わたしが話している間も、ずっと鉛筆の先を紙に擦らせ、一心不乱に丸と向き合っている。
 いや、勝手にわたしが話し始めたことだ。
 だから、蔑ろにされたと言うのは間違っているのかもしれないし、それで腹を立てるのはおかしいかもしれない。
 けどわたしはその時、なかなか帰ってこない返答に、確かにいらついていた。
 ……もう、いい。
 いくらかの沈黙の時が経った頃、わたしは痺れを切らせて、わざと側の椅子をがたつかせて腰を落とした。

 教材が入ったかばんも、チャックの開閉音を控えめにすることなく荒く開けたし、おにぎりを包んでいたラップもなるべくうるさく開いた。
 そして、飲み物が入った水筒もガツンと置こうとして――そこでふと勢いを弱めた。
 なんだか急に、自分がしていることが子どもじみていて、恥ずかしく思えてきたからだった。

 そっと水筒をテーブルに下ろして、わたしは男の人をちらりと盗み見る。
 彼は変わらず、絵と対峙していた。
 それを見た僅か一瞬の内に、ぐるんと頭が回るような感覚に自分が包まれて。
 それの正体が、凄まじい静寂だということに気がつくと同時に、わたしが今の今まで、音の中で孤立していたことを思い知らされた。
 それほどまでの静けさ。
 蒸すような暑さの中で、わたしはその大きさに途方に暮れた。



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