2.
「……無理」
音を立てて閉められた、管理人室の引き戸をしばらく見つめて、わたしは思わずぼやいた。
天気予報でも言っていた。
今日は猛暑日。40度前後。
それこそ地獄に飛び込んだかのような思いで、ひーひー言いながらここまで来たというのに、扉が閉め切られたこの部屋の中だなんて……。
想像するだけで空気が火を噴いたような気がした。
けど、家に戻るとなると、時間も体力も削れる。
削れた分で課題もなにも片付く。
その分早く帰ることも出来る。
考えた末、わたしは引き戸に手を掛けることにした。
急いで食べよう。
どうせおにぎりと飲み物だけだし、詰め込んだらそんなに時間もかからない。
地獄を味わうのも少しで済むのだ。
そう、言い聞かせて。
ゴトリと鳴って、途中突っ掛かりながら引き戸は開いた。
途端倉庫のような篭ったにおいと、むわりとした熱気が廊下になだれ込んで、わたしの足を、体を一瞬で包み込む。
冷えに慣れたわたしの体はそれだけでぶわりと汗が湧き、掛けた手に後悔した。
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