2.


 その植物は、種子を一粒飲む。
 そして、ひたすら普段通りの生活を送って、ある日唐突に、その種子が芽吹く瞬間を目の当たりにして……。


「杉岡はさー、ハラ減ったって言われたんだってー」

 じゃれ合いを終えたらしいサルが、化粧ポーチをがちゃつかせて、非常につまらなそうに告げる。
 ヒヒはといえば、つばを飛ばすような音を立てて笑い飛ばした。

「ハラ減ったとか、すげーえ!! それ当たってんじゃん!! ウチも飲もうかなー……。てか自分は? なんて言われた?」

「えー……うーん……」

 急にサルがいい淀み、そして


「キューティクル痛みすぎてツライー、って」

「まじー!? 爆笑ーっ!!」


 また濁声が笑い飛ばして、一緒になってサルが短く笑う。

 あ、と思った。
 このひとも、言えないのかと。

 なんとなくだ。
 よく知りもしない赤の他人のことだから、妄想でしかない。
 分かってはいても、わたしの心はそう決めつけて譲らなかった。

 猿人たちは、わたしと同じ駅で降りた。
 ヒヒとはここまでだったらしく、サルは馬鹿でかい声で別れの挨拶を返して、ほどなくして、とぼとぼと歩き始めた。
 駅のホームを出るまでは、わたしもサルも同じ道のりで、微かな気まずさが、わたしの中に生まれる。

 やがて帰宅途中の他校の学生や、サラリーマンの背中や頭にかき消されて、サルとの付き合いもそこまでとなったけれど、わたしの胸の奥に生まれたもやもやは、彼女を離してはくれないらしかった。

 あー、なんだか、あたまがいたいきがする。

 天気が崩れるんだろうか、と空を見上げて、わたしは数歩出たばかりの駅へ、のろのろと引き返した。
 駅の中のコンビニは、ホームより落ち着いていて、そしてなんだか明るくて、空気が澄んでいるような気がした。
 いつもと同じなのに。

 わたしはドリンクコーナーでミネラルウォーターを選び、すぐにレジへと向かった。
 コンビニを出ると、やっぱり構内が暗く感じる。
 電気が、古いんだろう。
 決めつけてわたしは近くのベンチに腰掛け、鞄から頭痛薬を取り出して、飲んだ。


――……ヅ……タ。


「え?」


 声がしたのは、その時だ。
 すぐ傍らからか細い声が、わたしに問いかけてきた。
 そう思ったのに、広いベンチにはわたし以外の誰もいない。


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