1.


 恋人に振られたわけではない。
 元々、恋人なんていなかった。

 学校でいじめられたわけではない。
 元々、その席は入学してからずっと誰かのものだ。
 そんな人たちの特徴や匂いも私は持ち合わせていない。

 家庭が嫌になったわけではない。
 元々、強く物を言うことをずっと昔に諦めてしまっていて、家族の誰かを嫌いになったことなんて、もう何年もなくなってしまっている。

 そこまで考えて、私は屋上の出入り口のドアに寄りかかった。
 日中のどろりと流れている埃臭いような静けさはない。
 快活な運動部のかけ声や吹奏楽部の個人練習が、校舎の外で雑に入り交じり、ここまで届いている。
 外でもなく内でもないここは、いっそ馬鹿馬鹿しいくらい孤立していた。

――あのフェンスを掴んだなら。よじ登ったなら。落ちたなら。

 私は普通だ。ごく普通の、ありきたりな女子学生だ。
 それがそう思い立って、居ても経っても居られなくなったのはどうしてなのか、理由をいくらか挙げてみたけれど、それらしいものはどんどん候補から外れていった。
 強く風が吹く。
 フェンスが少しきしんだ音を立てたから、もう一度私は指折り理由を数えてみる。


 

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