6.



「ここでお別れです。皆さん、口をきいたこともない方もいるけれど、私は新しい私に生まれ変わります。これからも皆さんの益々のご健勝をお祈りしておりますわ」

 しゃらり。
 ガラスの砂が床に零れたような音を残して、彼女はにこやかにその部屋から消え去った。
 呆然としていた一同に、あの子供が加わっていた。

「僕も戻れる?」

 子供は眉を下げ、目いっぱいに涙を浮かべて問う。

「僕も戻れるのかな?」
「それは何とも言えんよ」

 老人は重い腰を上げ、よたよたと子供のところへと歩み寄り、目線を合わせるようにしてかがむと、

「だって神様は気まぐれだからな」

 その言葉に何とも言えない空気になっている矢先、

「あれ!? お前も!?」

 管理部の身体がしゃらしゃらと崩れて昇っていきはじめ、それまでを共に過ごしていたドラゴンが椅子を鳴らして立ち上がる。

「あー……まじでかー」
「え、どうした!? まさか……し」
「死なねーよ。ただ、イラストで需要があったらしくて、これからは自由気ままに管理の仕事ができるみたいだ。きっとお前にいつも話を聞いてもらってたおかげだな。ありがとう」
「そんな……オレの事はいいんだよ、馬鹿野郎! ちくしょう、幸せに暮らせよ!!」
「ああ、またな」
「二度と来んな!!」

 最後の言葉までは残れなかったようだ。
 後に残った砂はいつの間にか消え去り、元の殺風景な部屋に戻っていた。

「あら、イラスト部門なんていつの間にあのひとは手を広げたのかしら?」
「貴女ももうすぐかもしれませんね」

 もう戸惑いはない。
 穏やかにロングコートが声をかけると「それよりもこの子でしょう」と男の娘は泣きじゃくる子供の頭を撫でつけてやって、天井を仰いだ。
 天井にはなにもない。
 床にも、壁にも、飾りになりそうなものはなく、ただただ余った椅子が乱雑に並べられているだけの狭い部屋。

「ご老人も、行けるといいな」
「なに、私は構わんさ」

 老人はやっと笑う。

「なにせ幾度目かの賢者の部屋だ。私はもういつ消えても構わんよ」
「そんなに入るものなの?」
「モブという役割がある。使われては捨てられる、それが私の役割だ。そろそろ現役から外れるのも時間の問題だろう」
「そう、なのか……」


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