三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】 | ナノ



三森あげはは淑女になりたい
自由に羽ばたく彼女が好きだから・前編【西嗣臣視点】


 俺の両親は立派な職業で高い地位を持つ人達だ。俺が幼い頃からずっといつも忙しそうにしていた。
 教育には金を惜しまない両親によって入学させられた学校、放課後には決まって習い事が待っている。家に帰れば学校の宿題を片付けなければならない。だけどそれは全て自分のため。俺はコツコツ真面目にこなしてきた。

 自分の周りには育ちのいいクラスメイト達。金にも不自由なく、欲しいだけ与えられた。
 俺は恵まれているんだと思っていた。
 そう思いたかった。


 ……本当はずっと前から気づいていた。
 両親が大事なのは世間体だけで、俺のことなんて単なる付属品としか思っていないって。
 会話すると言ったら成績のこと、素行のことばかり。学校の友人のことなんか聞かない。俺が体調を崩しても無関心。……俺自身のことなんか興味を示さない。最低限の世話をして、お金を与えておけばいいと思われていたようだ。
 一家団欒なんて記憶に薄い。なんたって両親の帰りは遅かったからだ。家族が揃う夜なんて珍しいくらい。
 食費を含んだ小遣いを与えられていたので自分で好きなものを購入して、1人で食事をするのが普通だった。親と食卓を囲ったことなど…あっただろうか…?

 親曰く、俺は手のかからない子どもらしいから。
 親にそう言われるたびに俺は「親に迷惑かけてはいけない、ワガママを言ってはいけない」って自分に呪いをかけてきた。
 人の顔色を伺って過ごす、可愛げのない子どもだったと思う。

 本当は、周りの子供のように甘えたりわがままをいいたかったけど、そうしたら両親は失望の眼差しで俺を見るとわかっていたから……俺は諦めていたんだ。


 親にとっては子どもは愚鈍で察しが悪い生き物だと思われているようだが、実際には子どもは大人が思うほど鈍くはない。親が何を隠していて何をしているかを子どもは察することもできるんだ。


 両親はお互いに付き合っている人がいるらしい。俺が小学校4年の時には勘付いていた。
 中学に上がった時に母親に愚痴られついでにカミングアウトされたこともある。再婚したい人がいるって。

 『あんたがいるから、お父さんと別れられない』と母親から面と向かって言われたんだ。
 反抗期に入りかけていた俺は、「何故そんなひどいことを言うのか」と傷ついたと同時に「自分たちが結婚してこさえたくせに何を言ってるんだ」と反抗していた。
 結婚してるのに不倫なんかして、それを子供のせいにして馬鹿じゃないのかこの人と、がっかりした覚えがある。 

 あの人達に反抗したくて、なにか悪いことでもはじめてやろうかと思ったが、中学生の俺はタバコも酒も購入できない。
 なのでテストをわざと白紙で出したら、学校側が親を呼び出した。俺は教師の前で顔を真っ赤にさせた父親に殴られた。成人男性の力に中学1年であった俺が耐えられるわけがなく、軽々吹っ飛んで床に叩きつけられた。
 ぎょっとした教師が慌てて「テスト中体調が悪かったんだよね!? 西くんいつも成績いいのにおかしいなって先生思ったんだよ!!」と俺をかばう始末。

 家に帰った後もグチグチと叱責された。親に恥をかかせるなとか、面倒かけるなとかなんとか言っていたが、結局は自分のことしか考えてないんだ。
 自分の思い通りにならないなら暴力も辞さない。親にとっての俺は、邪魔者であり、優秀な人形でなければ存在を許せないものなのだとよく理解した。

 実子の俺よりも、他人の不倫相手が大事な俺の両親。
 そんな両親のもとで育つ俺の心が荒れるのは自然なことだと思う。


 俺があいつと出会ったのは中3のときだ。塾が終わった後、俺は帰宅せずに夜の街をぶらついていた。どうせ俺が帰らなくても親は心配しない。家には誰もいない。
 家に帰りたくなかったんだ。息苦しい、あの家には。

『なぁ、なんでお前、空に浮かんだ青鯖みたいな面してんの?』
『……中原中也…?』
『あっ知ってる? 今日学校で習ったんだよー』

 ガードレールに座る少年に掛けられた言葉に俺は足を止めた。
 詩人が文豪に対して放った悪口を使ってみたかったのだろう。俺に対して青鯖みたいな顔と言い放ったあいつ…琥虎の目はキラキラ楽しそうに輝いていた。
 琥虎は当時15歳にして、髪をまっ金色に染め、耳にはたくさんのピアスを開けていた。まさに素行の悪い不良そのものであった。
 普段であれば素行が悪そうな輩と関わることは絶対にしないのだが、その時は親への反抗心で内心荒れまくっていた俺は琥虎に黙ってついていったのだ。

 連れてこられたのは古びた自動車修理工場であった。俺はてっきり不良のたまり場にでも連れて行かれるのかなと思っていたがそうじゃなかった。

『これから山に走りに行くんだってさ。お前も乗ってけよ。スッキリするぞ!』

 琥虎の知り合いだという怖い兄さんが自慢の愛車に乗せてくれると言うので内心ビビりながら同乗した俺は、彼らの気の済むまでドライブに付き合わされた。
 未成年がうろついていい時刻なんてとっくに過ぎた深夜、峠を超えた先にたくさんの車と二輪車が集っていた。これらがどういう集まりなのかは知らなかったが、俺はなんだかドキドキした。
 こんな世界を初めてみたんだ。
 
『楽しかったろ! 俺も早く免許取って自分の車運転してぇなぁ』

 高いところから見下ろす街は、街灯や家から漏れ出す明かりが宝石のように散らばっていた。こんなにとっぷり暗いのに、街全体が明るい。自分の家はどのへんだろうか。
 ……ここから見る景色はこんなにも小さいのか。自分が小さな存在になった気がした。
 でもそうだな、俺の存在なんて地球規模、宇宙規模で見たら本当に小さなものだ。……自分がいる世界がいかに狭い世界だったのかと実感した。家と学校と塾。俺はそれしか知らない。周りにいる大人は親と教師たちだけ。俺には勉強しろしか言わない。子どもを操作することしか考えていない大人しかいなかった。
 その日初めて、周りにいないような違った常識を持つ大人と関わりを持ったのだ。

 世間一般では、未成年を連れ回す大人の方が悪いと言われるだろうが、俺は彼らからいろんな事を学んだ。少なくともそれに救われた部分もあった。

 仲間に混じって品行方正とは言えない活動もした。深夜徘徊や家出は序の口だ。喧嘩もした。警察に追いかけられて、大人をおちょくって……それを楽しんだこともある。
 ……あまりにも家に帰りたくなくて、年上の女性の家でお世話になったこともある。俺が外見に恵まれているからか、女性側から援助を申し出てくれることが多く、宿泊場所に困ることはなかった。

 ──長いこと女性達にお世話になっていたが、ある日を境にぱったり止めた。
 


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