星の下で



夜のビーチは物静かで波の音だけが鳴り響いていた。

ザザザ…と砂の上を走る波の上には綺麗に輝く星々に、ヤシの木の葉が風でゆらゆらと揺れ、夜の風が体の脇を涼やかに通り過ぎていく。

そんな幻想的な空間に思わずほうと見惚れてしまう。

だけどそう思っているのは僕だけだったみたいで、一緒にいた狛枝くんは僕の横顔をじいと見てたかと思いきや、突然口を開き。

「ごめん、勃っちゃった」

なんてムードのカケラもない言葉を言い放った。勿論、かたまる。

「…え?」
「苗木くんのうなじ見てたら勃っちゃった」
「…」
「どうしよう」

……この言葉にどう返せば良かったのだろうか。笑顔のままかたまり、えーとと何度か言葉を濁し、暫く考えたあと、ようやく出せた言葉といえば。

「……どうしよう、か」

狛枝くんの言葉を復唱することしか出来なかった。だって突然、その、勃っちゃっただなんて。唐突過ぎてどう返せと。
半笑いではははと返すので精一杯でじりりと狛枝くんと距離をとろうと砂の上に手を置く。大抵こういうときの嫌な“カン”なるものは当たる。
それが幸か不幸かと問われればどちらともいえない。だって、相手は狛枝くんだ。もう嫌な予感を感じた時点で正直運命は決まっていた。

「ねえ苗木くん」
「なに、?」
「だめかな」
「なにが」
「僕に言わせる気?ああそうだよね、だめだよね…。恋人同士になって、デートもたくさんして、数え切れないくらいセックスもして」
「わーわーわー!」
「マンネリになるのが嫌だからたまには外で、なんて考えてた僕がいけないんだよね。だから勃っちゃったのかな」
「そんなこと考えてたの?!」
「苗木くんと一緒にいたら考えちゃうよ」

悪びれず素直に言う狛枝くんに僕は口をパクパクさせることしか出来ない。

何言ってるんだ、そんなことを言って僕が、その、この場で、や、ちょっと狛枝くん近い近い近い近い!近い!

「苗木くん」

狛枝くんの甘く低い声が僕の耳元で囁かれる。ぞくり、と背筋に甘い痺れが走り顔を真っ赤にさせれば、くすりとからかうような吐息がかかった。

「ちょっとだけ、付き合って?」

そのまま優しげな手つきで耳たぶを弄ばれてしまえば、ああ、あとは抗えるはずもない。
だって僕は狛枝くんのことが好きだから。彼が僕に尽くしたいと考えるのと同じように、僕も彼の希望を叶えてあげたいと思ってしまう。
なのではじめからこの嫌な予感の結末は分かっていた。

「…ちょっとだけ、だよ」

狛枝くんが求めるのなら、別に、いい。そっぽを向き極めてぶっきらぼうな言い方で言えば、狛枝くんの嬉しそうな顔が視界に入った。ばか。





そこからの行動ははやかった。

着ていたシャツの裾から手を滑り込ませ脇腹を柔らかくくすぐり、その先にある胸板に手を伸ばしてきた。
外でことに及ぶということは初めてだったためどきどきと心臓が高鳴るのを感じ、狛枝くんが肌を撫でる度に声が出そうになるほど多感になっている。
狛枝くんはそんな僕を幸せそうに眺めついに胸の突起物へと触れる。ツン、と立ち上がったその周りを人差指が優しく撫でた。

「あ、う」

ついに耐え切れず声を漏らす。まだ突起物自体はそんなに触られていないというのに、周りを撫でられてるだけでじくじくとした熱がこもっていくもんだからもう。
何周か周りを撫で続け僕の反応を見る狛枝くんは焦らしているようだ。中々しっかり目的の場所へと触れてくれない。

「はあ、ん、う、」
「気持ちいい…?」
「ん、」

ぷい、と顔を背ける。気持ちいい、が物足りない。もっとしっかり触って欲しい。ぐるぐると熱がまわりもどかしい気分でいれば、狛枝くんの薄い唇が僕の耳をはむりと噛む。
やわやわと甘噛みされ驚きともどかしさに「こまえだくッ、ん!」と焦ったように声を出すが、彼はやめることはせず囁いた。

「可愛い」
「ッ、ふあ!」
「あー、ほんと可愛い。どうしたらいいんだろう」

囁きながらきゅっと突起物を人差指と親指でつまみ上げてきた。ハァハァと荒い息が耳元で忙しなく聞こえ、尻には何かかたいものが当たっている。
一見性欲などなさそうな狛枝くんだが、意外と旺盛なことを知っている。
ごりごりと当てられるかたいものに自分も興奮してしまい、まだ触れられてもいないズボンの中がじわりと滲んだ気がした。自分もそれなりに旺盛なのかもしれない。
頭の片隅でぼんやりと考えたが、突然ズボンの中に手を入れられそこを握られ「あうッ」という大きな声を出してしまった。

「あっあっ狛枝く、はあっあふうっ」
「元気そうだね。苗木くんのここ」
「なッに言って、はう〜〜〜〜ッ!」

じゅぶじゅぶじゅぶ!大きな水音を立て激しくスライドされてはもう喘ぎ声しかでない。
びくびくと太ももが痙攣し狛枝くんの服にしがみつき、息も絶え絶えになって口元からヨダレを垂らす。
きもちいい、なんだろう、外だからだろうか。走る快感に追われながら砂を蹴り「こまえらく、こまッ、こまえらッくうッひ、はあッ」と必死に名前を呼ぶ、と。
乳首をいじっていた手がズボンの中にスルリと入り込み、尻の穴の入口をつんつんとつつき出した。
これには本当に驚いて背中を海老反りにし狛枝くんの服にシワが出来る程掴んでしまった。

「どッ同時は、や、やううッ」
「一緒にされるともっと気持ちいいでしょ?」
「しょ、んなこと、ッ」

ずっぶり。指が一本入り込みぞくぞくと這い上がる快感に唇を噛み締めた。その間にも息子は握り締められ時折先端を弄ぶかのようにタップしていくものだから腰がつい揺れる。
狛枝くんに与えられる快感にもうおかしくなってしまいそうだ。ハァハァと荒い息を繰り返し赤い顔で狛枝くんを見れば、目と目が合う。
狛枝くんも興奮しているようで目元が赤くなっておりギラギラとした目を向けてきた。

「こまえ、んむッ!」

反射的に名前を呼びかけた時、いきなり狛枝くんが唇に吸い付いてきた。
はむり、と貪るかのような勢いで口と口を合わせ乱暴に舌を絡め、涎を交換し合う。

「はッ、あ、ん、んッんッむうッ」
「苗木、くッん…」

唇。息子。尻の穴。どこもかしこも激しく愛され目眩すら感じる。実際ほとんど口は塞がれているのだから呼吸困難による目眩などはいつ引き起こしてもおかしくない状況だった。

先走りでヌメる棒を激しくしごき、亀頭を優しくこねまわし、穴を爪先でいじり。
その一方でいつの間にか指の本数が増やされた穴の中でぷっくり膨れ上がった前立腺をぐりぐりと押され虐められ、無理矢理でも快感が背筋を襲う。
最後に獣のようなキス。息継ぎの暇さえ与えぬそれは普段の狛枝くんからは想像出来ぬ程激しく荒々しく全てを飲み込んでしまいそうで。
もう何もかも、全身に媚薬がまわったかのように熱くてたまらなかった。

もうイキそう。ぶるりと震えれば狛枝くんは察知したようで長いキスを終え唇と唇をはなす。
お互いその瞬間ぷはりと深く息を吸い呼吸を整えながらも狛枝くんはまだ手を休めない。じゅぶりと液体が泡立ちそうになるくらいしごかれはふはふと喉を震わせた。

「あうッうああッアッう、うゆッあ!」
「苗木くん有難う。でもね、優しすぎるんだよ君は。だから僕みたいなゴミムシにつけ込まれるんだ」
「はうッあッあッ」
「…好きだよ、苗木くん。好き、好き好き好き、大好き」

何度も好きと切なげの表情で訴えてくる狛枝くん。きゅうん、と心臓を鷲掴みにされた気持ちになりながら、僕も狛枝くんに顔を近づけ快感に逆らいながら答えた。

「あふぅッうッアッ、しゅ、う、きぃッ」
「…」
「こまッら、く、すきッ、す、はう、うあうッ!」




やばい、クル、クル、く、る。




ぞくぞくぞくう!瞬間的快感が一気に背筋を走り抜けぐりぐりと穴を弄られびゅるるるる!と勢いよく白濁を飛ばした。
最後まで搾り取られるかのように何度も息子をスライドし、とろとろと溢れ出し、熱に浮かされそのまま目を閉じた。


気だるい倦怠感が襲ってくるがこれでまだ終わりではない。まだ狛枝くんがいれていない。

自分だけが気持ちよくなるなんて嫌だ。

のろのろと足を開き、その奥にある穴に指先をかけ彼を見た。




「こま、えら、くん…どう、ぞ」




その時自分は頭がぼうとしていた。きっと冷静だったならばこんな行動しなかっただろう。

けどイったばかりで深く考えることが出来ずにした行動に、狛枝くんは目を見開き、やがて幸福そうな顔で涎を垂らしたかと思うとすぐに飛びついてきた。

「苗木くん!ああ!もう大好き!愛してる!このあとの不幸は全て受け止めるから今だけはこの幸福に浸らせて!」
「はうッ」

好き、好き、そう愛を囁きながら首元にキスの雨を降らす狛枝くんを受け止め、空を見上げた。
綺麗な星々、綺麗な月、どこまでも遠く伸びていく空に感傷的になり、狛枝くんに抱きついた。

僕だって大好きだよ、狛枝くんのこと。

熱く大きなものが中に入ってくる感触に震えながら、ただこの幸福にずっと浸っていたいと、流れる一つの星に願った。






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