嵌り堕ちる先




じわじわじくじく。体中を掻き毟ってやりたいくらいのむず痒さが引っ切り無しに湧いてきて思わず身をよじる。
だが椅子に座った状態で拘束されているため、その囁かな願いさえ叶えられずただ堪えることしか出来ぬこの状況に唇を噛んだ。
なんだこのむず痒さは。悪態をつく。同時に火照った体が汗ばみ着ているTシャツが透けてしまっており、異常な状況下のせいで何度も荒々しく鼓動をしていた。
この疼きどうしたものか。薄暗い部屋の中にゆらめく影を睨みつけながら考えていると、一時の間傍観を決め込んでいた陰が動き出す。
こつこつこつ、コンクリートの床が静かな音を響かせながら影は段々に僕へと近付いてきた。



「そろそろ限界なんじゃないかな」



歌うかのような軽々とした声音で薄暗い影から一人の男の姿が現れる。
色素の薄いふんわりとした髪、ほっそりとした白い肌、深緑のコートを羽織った、本来ならば助けられる側の人間。
しかし彼は違う。助けられる側の人間だと最初は認識していたが今このような状況になってしまっている以上僕は彼に向かって警戒しなければいけない。

「…君は、っ、狛枝、凪人、さん…だね」

喉元までせり上がってきた熱のせいで声が震えたが、書類で見た顔と今目の前にいる彼の顔が一致していることくらいは分かる。
確信を持ってそう伝えれば彼は嬉しそうに口から感嘆のため息を吐いた。当たりだと言わんばかりに。
その事実にようやく状況を推測することが出来、脳内で最悪なパターンをいくつか思いつく。狛枝凪人。彼はもう、落ちたのか。

「そうだよ。一応初めましてって言わなければいけないのかな」

近付いてきた彼は僕にすっと手を伸ばし頬に触れる。冷えた体温が触れただけだというのにむず痒い体はびりりとした刺激を脳に送ってきた。
「あっ」思わず小さく声を漏らせば彼は満足気な笑みを浮かべそのままするすると頬を何度も撫であげてくる。時には首元まで指先が落ちる時もあった。
じくじくじく。動かない体がようやく訪れた第三者からの刺激にぶるりと身を震わせ堪える。やな感じだ。

「っ、…、ふ、」
「うずくかい?」
「は、ッ何か、盛った、?」

異常な程までの疼きが自然現象で起こっているとは考えられない。首筋を猫のようにくすぐられ甲高い声が出そうになるのを無理に抑えながら聞けば意味深な笑顔を返されるだけ。
その笑顔を見て眉間にしわを寄せた。直接的な言葉ではないが否定もしないのなら肯定しているようなもの。一体いつ盛られたものなのか。
脳内で記憶を遡り思い出そうとするが何故か霧がかかったように思い出せない。これも薬のせいなのだろうか。
悶々と考えるがその間に彼は首筋から鎖骨につううと指先を下ろす。びくん、ぎしり、縄が軋む。

「中継で」

つうう…。何度も往復する指先のせいでどうしても堪えきれない熱情がこみ上げてくる。
このままだとだめだ。はぁと熱い吐息を零しながら腕に縄が食い込むことを忘れくねくねと体を動かしもがく。
まるでもっと触ってと言わんばかりの動きだと自身でも思ってしまう程の腰のうねりが憎たらしい、が、そう簡単に止められるものではない。薬物で高められた何かは確実に体を蝕んでいた。

「君の姿を見たよ」
「…、ぅ、あ、あ、あ」
「君は本物の希望だ。まさかあの江ノ島盾子を打ち砕くだなんて、予想外だった」
「ひ、ん、…、…ッう」
「いや、希望を信じてはいた。信じてはいたけど、江ノ島盾子のあの終わり方」

そこで暫く何かを思案する様子を見せた狛枝凪人は僕ではなくじいと宙を見つめた。
それなのに指先だけはしっかり動いているものなのだから堪らない。一体何を考えているのか、何を思っているのか、問いただそうとするも震える喉ではどうにもならず見つめるだけ。
やがて彼はふっと焦点が戻ると僕に視線を戻し安心させるかのように微笑みを落とす。

「そのおかげで君と出会えたのだから、感謝しなければいけないね」
「…ッ、ふ、え…?な、なに、ひッ」

同時に顔をゆっくりと僕に近付けて来て頬に唇が触れた。柔らかな感触につい悲鳴を上げたが彼は気にせず何度も頬や鼻筋、瞼、額に触れる。
だが唇だけは避けているようで端正な顔立ちだけが視界いっぱいに広がるのを僕はただ受け止めるしか出来なかった。
どうにかこの男と疼きから逃げ延びたい。縄さえ取れれば今すぐにでも弾き返すというのに。
何も出来ぬ悔しさに奥歯を噛み締めたが、男の指先はズボンの上から性器を撫で付けたものだから慌てる。

「ちょ、ッ、どこ、触っ」
「あぁ、勃ってる」
「ッ、ん、く」
「痒いでしょう?ここ、いっぱい触って欲しいよね?」

一体何を言っているのだ。そんなワケないじゃないか。
言い返そうと口を開いたが、ぞり、と生地越しに撫で付けられた途端今まで我慢していた疼きが爆発する。


「ッあああ!」


びくびくびくびく!縛られてている腕、足が軋む程体が反り返る。全身に甘い痺れが走り足ががくがくと震えだす。
なんという、甘美な刺激。目を見開きその刺激に暫く放心していると狛枝凪人が耳元でくすりと笑う。

「気持ちいいんだ」
「っ、そ、なッ、」
「いいんだよ。もっと素直になって、この快感に溺れてしまって…」

耳元で優しげに囁くと共にジイイというジッパーの音。放けていたため気付けなかったが性器に触れられ流石に気付く。
細い指先が中から性器を引っ張り出す感触は初めてのものでそれだけでも疼きのおかげで倍増されている感覚に身をくねらせた。

「やめ、や、あ、あ、ッひ」

既にそそり勃っている性器はずくずくと疼き血管を浮き上がらせている。
先端の穴からはぷくりと粘着質な液体をこぼしており更なる快感を求めるかのように口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
信じられなくてそこをついガン見したのだが見えるものは変わらぬもの。すなわち事実。
自分は今こんな男に弄られて勃起しているのだと思うと、羞恥やらなんやらで死にたくなってきた。
仮に薬の効能だとしてもそれだけでは片付けられぬもの。今すぐ手で隠してしまいたいともがいたがやはり縄はしっかりと結び付けられており外すことは叶わなかった。

「ッ、君、はッ、あ、ん、なんでッこんな、ッ、ぅ、こと、を」

男が男にこんなことをするだなんて。自分の生きてきた中で考えれば普通はありえぬことだ。
快感で嬌声を上げてしまう中伝えると、彼は動じぬ眼で僕を見つめてくる。やはり彼は落ちているのか、その眼の仄暗さが目に入った。

「なんで?」
「ッ、ひン!あっ、あ、もうっ、」
「僕がどれだけ君に恋焦がれていたか、知らないからそんな風に言えるんだろうね」
「は、あ?ン、やば、あう、ひ」
「ようやく君がここまで成長してくれたんだ。嬉しいんだよ、僕は」

ぬるりとした液体をまんべんなく使い幹に手を這わせる彼は意味不明なこと言うもんだからわけが分からず怪訝な顔をする。
恋焦がれていた?ここまで成長?嬉しい?知るもんか、そんなこと。結局僕の問いの返事になっていないじゃないか。
彼がどのような感情を持ってこんな行動に出ているのか、明確な答えが知りたかったというのに、内心愚痴のように零すが口から出るのは女のような喘ぎ声。
はふはふと呼吸荒く彼を見つめわけが分からぬ意思を伝えようとすると、ふと視線が合った狛枝凪人が笑みを浮かべたままゆっくり首を振る。

「…でも、もういいんだ」
「ッ、う、なに、あ、ンッ、があ」
「だって」

そこで彼は綺麗な指先を滑らせ尿道に押し当てた。
ぐりぐりぐり、とねじ込むような動きに思わず悲鳴を上げ腰を引いたが椅子のせいで逃げることも叶わず真正面からその快感を受けることになってしまった。
堪らず首を振り体の奥底から急速に湧き上がってくる何かに腰を何度も揺らめかしていると、目の前で狛枝凪人が目を細める。

「君はもう、この手の中に」

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。その眼の奥の奥、更に奥。仄暗さの奥に隠されている絶望の色を見ながら、激しい快感に震え、僕は。


「あっも、やば、だッ、―――あうううッん!!」


びゅるびゅると白濁を飛ばしイってしまった。頭の中が真っ白になり体を折ってその快感に震えていたが、彼は僕がイったのを見て更に性器をしごく。
鬼頭をくすぐり、カリをなで上げ、幹をしごき、イったばかりで敏感になりすぎているそこを休みなく刺激し続ける狛枝凪人に悲鳴にも似た声を上げた。

「も、あう、イった、イったからぁ、はうッあッ」
「まだイけるでしょ?あは、びくびくしてる」
「だめえ、ッむり、うに、うッ、んああ!」

イったというのに刺激を与え続けることをやめない彼。いきすぎる快感は苦痛でじわりと涙を滲ませると彼は安心させるかのようにもう片方の手で僕の頬を撫でた。

「大丈夫だよ。今日はたくさんイかせてあげるからね」

誰もそんなこと望んじゃいない。そう伝えたくとも引切り無しに訪れる快感は言葉さえ奪う。
一体彼、狛枝凪人が僕に何を望んでいるのかまったく分からぬ今、為すすべもなくその快楽を受けるしかない状況にとうとう涙をほろりと零した。
あぁ、ごめんね霧切さん。そして出来ることなら伝えたい。残念なことに狛枝凪人は既に絶望化していたよ、て。
この事実を知らぬのはあまりにも危険すぎる、僕がこの場から抜け出すことが出来ればいいのになあ、なんて。

「ひうぅッ」
「良い子だね、苗木くんのここ」

だけどそんなことよりも一番強く願うのは、どうか早めに助けに来てくださいお願いします。霧切さん。



prevnext




トップ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -