犯し塞がれる先






「嵌り落ちる先」の続きのようなもの











「ッ、は、…は、」





コンクリート剥き出しの廊下を今にも崩れそうな足でよろよろと歩く。
気を抜けば直ぐにでも地面に転がってしまうであろう程快楽は絶えず襲ってきて、涙で歪む視界はぐらぐらと動いてばかり。
正直言って辛い。この快楽に従い抗うことなどせず地面に寝転がってしまえたらどれだけいいか。きっととてもラクなんだろう。
でも僕はその選択をしない。その選択をしてしまったら、僕はそのあと必ず後悔をして仲間の姿を思い浮かべるであろうから、抗うことだけはやめたくない。
ぎゅっと拳を握り壁に爪を立て決意をかためれば僕の考えを読んだかのように自身の中に埋め込まれら玩具がぐりん!と動きを強めた。

「ッひい!」

思わず喉を引きつらせ悲鳴を上げる。前立腺をごりごりとかき分けるかのように玩具が振動しそのせいで引切り無しの快楽が全身に伝わった来た。足が止まる。

「や、くぅッあ、あ、あ」

ズボンの中では既に性器は立ち上がり先走りを大量に流しているのだろう、パンツがぬめりけを帯びており気持ち悪い。
足もがくがくと大げさに揺れ歩くことが困難になり壁に寄りかかっているだけの状態になって呼吸を落ち着かせようとした。
すうはあすうはあ、深呼吸、しかし相変わらず尻の中を遠慮なく抉り続ける玩具のせいで高い声が出るばかりであった。

「う、うッん、く、そお…ひゃうッ!」

あぁ、もう、早くこんなところ逃げ出してやる。狛枝凪人という男の手から、逃げ出してやるのだ。
『暇だから鬼ごっこでもしよう』そんな提案をしてきた男の顔を思い浮かべながら、僕は奥歯を噛み締める。
なめているのならばなめていればいい。狛枝凪人。僕は君の気まぐれによって始まった突発的ゲームを利用してここから逃亡してやるのだから。
荒い呼吸になりながら、なんとかずるずると壁に体を任せ進んでいき、この先にあるであろう出口を目指し進む。絶対、逃げてやるんだ。

「…諦め、なッ、い、ッ」

霧切さん。十神くん。朝日奈さん。葉隠くん。みんな、みんな、帰りを待っているんだ。僕も早くみんなに会いたい。会って、笑いたい。
こんなところで一人立ち止まっているわけにはいかないから僕は無理をしてでも突き進む。
きっと霧切さんのことだ、救援の動きも出しているんだろう。しかしそれすら待てぬ程焦りを感じ、これ以上ここにいると精神すら蝕まれそうな恐怖に煽られ、必死に足を動かした。
僕が僕でいれる間にこの場を抜け出し希望のために働きたいし、それこそが未来機関に入った大きな目的。捉えられる側でいるつもりはない。

「っは、ァ、あ、あ……あ、あッ!?」

なのに……それを邪魔しようとするものが、今この中にある。
ただ振動するだけの動きを見せていた玩具の動きが、突然急に細やかなものに変わったのだ。
抉る力は相変わらずなのに新動が細やかになった分刺激も増し、呼吸を整える時間すら与えてくれず、堪らずその場に崩れ落ちた。
意地でも突き進んでやる…そんな願いもたった一つの玩具のせいで簡単にも奪い去られ、冷たいコンクリートの上でびくびくと魚のように痙攣する。
尿道も中ではぱくぱくと口を開いたり閉じたりし、放出の時を控えているかのようで、その強い快楽の前で僕は震え喘いだ。

「ッ、や、だあッうあ、んッひうう、ッ」

なんだこれは。なんだこの痺れは。感じたこともない初めての快楽にただ喘ぐしかなく、両腕でその身を抱き堪えようとする。
口の端から流れ出る唾液は床に落ち、ぼやけている視界の中で黒い染みを作った、あぁ、汚い色。びくんびくん、あ、あ、あ、あ、う、ひい、あっ。



「すごい動きするでしょ、これ」



こつこつこつ、びくびくびくびく、あ、あ、ちょっとやばいこれほんとやばいかも。

ぶるぶるする腕で声を殺そうとするのに結局殺せず、上を見上げれば、そこにはいつの間にか僕を見下ろす狛枝凪人の姿が。
楽しげな顔で手元に持っているリモコンを操作し玩具を調整しており、いつも着ている深緑のコートがゆらりと揺らめいていた。あぁ、狛枝凪人、全ての元凶が今ここにいる。

「っふ、あ、止め、あううッ、て、!」
「もう、苗木くんしっかり逃げてよ」
「ひい、っは、あ、う、ん、ッ」
「これでゲームは終わり。あっという間だったなあ」

言いながらもかちかちとリモコンを操作し様々な動きを見せる玩具のせいで立ち上がろうとした手足がずるりと滑り、結局のところ惨めな姿を晒すことになる。
こんな地べたに這っている姿などそうそう人には見せぬもの。羞恥もあるが、今はそれよりも早くこの玩具から開放されたいという思いばかりであった。
縋るように狛枝凪人のスボンを握り、軽く睨みつける。「い、っから、止め、ッ、ひ、…て…!」早くして。
しかし彼は緩やかな笑顔を見せるだけで止めようなどとはせず、僕の足元から顔面までゆっくり眺め見る。あまりにも不躾な視線。思わず眉間にしわを寄せた。

「あぁ、やっぱり君は絶望しないね。素晴らしい」

代わりに賞賛のような言葉を頂きプラス拍手をされた。意味が分からない。そんなものが欲しくて彼のゲームに乗ったわけではないのに。
あまり暴力というものは好かないが、僕としても男のプライドややるべきことのため、もしものときはこの手を奮う覚悟もあった。まさかとは思うが今がその時なのかもしれない。
ぎゅっと手に力を込め、今度こそ勢いよく立ち上がりまずはあの手の中にあるリモコンを取り上げようとする。あれさえ止まればこのぎこちない動作もどうにかなるはず。
そう信じて、自身の重たい体重を持ち上げようと力を込める。そしてそんな僕の様子を見て狛枝凪人がリモコンのあるスイッチを押したのはほぼ同時であった。


びゅく!びゅるるるるるるる!!!


「ッひ、い〜〜〜〜、んッあうううッ?!」


玩具から生ぬるい液体が飛び出し、まるで中出ししたかのように奥まで入り込んできたのだ。
ぬめりけを帯びた液体が自身の中に発射された感覚は気持ち悪い、と思う前に背筋にぞくぞくとしたものを這わせ、そして、自身の性器も一緒に震えイく。
ズボンの中に吐き出すという感覚はやはり気分が良くないもので不快感を露にすると、彼、狛枝凪人の手がそっと頭の上に乗った。
瞬間快楽ではない寧ろ悪寒とも呼べる何かが全身に伝わり、心の中からそろりと覚えのある感情が顔を覗かせた。
叶うことなら変に高鳴る心臓をこの手で収めてあげたい。けれど、体は思うように動いてくれない。どく、どく、どく、音だけがすぐ耳元にある、可笑しな感覚。

「苗木くん、じゃ、今日はもうお部屋に戻ろうか」

あぁ、そうだ、この感情は、恐怖に似ている。この男によって精神を犯されるという、最も屈辱的なことをされかねないことに対する恐怖。
視線をコンクリートに落とし、よしよしと優しく撫で上げてくる手のひらに僕はイった余韻でびくびくとしてしまう体で伝ってきた涙を舐めとった。しょっぱい。ちくしょう。




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