薬物中毒




苗木の体を味わったとき、一番最初に感じたものは甘味だった。
舌先にとろりと残り心の奥まで滑り込んでくるその甘味はまるで麻薬のようで、一度味わってしまうと抜け出せなくなってしまう。
一緒にいるだけで充分、なんて、かっこいいことを言えたらどれだけ良かったか。
残念ながらその味を知ってしまった以上定期的に求めずにはいられず新たな刺激を脳は欲しており、
彼の仕事の都合を考えなければいけないはずなのに気がつけば会いたいという感情で埋まっていた。
そこに立ちふさがる壁というものが先ほども言った仕事なのだが、苗木は希望のために日々働いており地方へ飛ぶことも多い。
俺だけに時間を費やすということが無理だということは充分分かっているはずだ。
しかし、それでもあの味をもう一度味わいたくて、苗木をこの体で感じたくて、無性に求めずにはいられなくて。


まぁ長々と話してしまったが、簡潔にまとめるとするならば“欲求不満”という一言に尽きてしまうわけだ。




「ひ、日向くん?!」
「…久しぶりの苗木だ」


島に苗木がやってきた。その話を聞いた瞬間足は勝手に苗木のところに向かっており、彼は自身がこの島に滞在中お世話になる部屋を掃除している最中であった。
視界に入れた瞬間堪らず抱きしめ首筋に顔を埋めれば苗木の濃厚な香りが鼻腔を擽る。あぁ、求めていたものがこの手の中にあるんだな。
夢心地の気分で戸惑う苗木を閉じ込め存分に味わいながらその首筋に舌を這わす。ぬるり、ぬめったものが這う感触に苗木は堪らず声をあげた。

「ひえっ!ちょ、何してんの!」
「舐めてる」
「な、ななめ…!」

首筋を夢中で舐めているせいで苗木の顔は見えないがきっと真っ赤で口をぱくぱくとさせているのだろう。
安易に想像できる顔にくすりと笑ってしまえばその息すら刺激になるらしくびくりと細い肩が跳ね上がった。

「い、いきなり押しかけて来て、ひ、日向くん!」
「だめ、か?」
「う、…だめじゃ、ない、けど…」

しどろもどろに視線を彷徨わせながら言う苗木は満更でもなさそうだ。
感動の再開、恋人同士の甘い雰囲気を漂わす、なんてこと出来なくてごめんな。でももう限界なんだ。体がお前を求めているんだ。
何度も心の中で謝りながら柔らかな体躯を舐め回し、ワイシャツのボタンをプチプチと早急に外していく。一つ外すごとに苗木の肌が露になっていくのは視界的にも堪らないものだった。
くらくら、あぁ、早く味わい尽くしたい。甘い声をこの耳で聞きたい。鼓動が妙に煩い。どくどくどくどく。
その欲望に素直に従い俺は素肌の上にある卑猥な突起物を人差指と親指でつまみ上げた。

「うあっ」
「なんか、前より色濃くなってないか?」
「そ、っなことな、い」
「一人で弄ってたのか?…それとも」

つまみ上げた突起物こと乳首をそのまま引っ張り上げ人差指の爪先でカリリと強めに引っかく。そして低めの声音で耳たぶをはむりと噛みながら眼光を鋭くさせた。

「…他の誰かに、触ってもらった?」

色くらい気のせいかもしれない。俺の思い違いという可能性も大きい。しかし、この激った欲望のせいで今はそんなことどうでも良かった。
僅かな可能性を見逃せるわけもなく乳首に爪を立てて聞けば、苗木は痛みに顔を歪めながら俺の手にすがりついた。

「さわら、せるわけない…よっ、ひ、いあッ」
「ほんとか?」
「うん、ん!日向くん以外に触らせるわけ、な、い…」

痛みのせいか、ふるふると小さく震える手で苗木は必死に俺を見上げて言った。信じて、そんな声が聞こえてきそうなくらいな真摯な眼差しに思わず爪を立てていた手が止まる。
はっきりと日向くん以外に触らせるわけない、と発言した。俺だけにしか、と。何度も頭の中でリピートし、独占欲も満たせてきたころ冷静になり始めた頭で苗木の乳首に再び触れた。

「…悪かった、痛かったよな」
「だいじょ、ぶ…。だけど、日向くんなんかあったの?急に、その、こんなこと」
「急に?…急に、でもないんだかな」

ずっと前から苗木のことを求めていたんだ、俺は。苦笑と共に呟かれた言葉は苗木には聞こえなかったのか彼は不思議そうな顔できょとんとするだけであった。
まぁ、そんなことはもういいんだ。醜い嫉妬をしていただけなんだ俺は。
気を取り直して優しく乳首の回りを撫で回し、時折こりこりとした乳首に指を打ち付ける。とんとん、とリズム良く打ち付けていれば苗木の体も同じように揺れる。

「っふ、う、っあ」
「俺はもう苗木無しじゃ生きてけないな」
「ひいあッ、うう、っ、」
「…ずっと傍にいればいいのに」

ぽつり、つい本音が漏れた。苗木の濡れた瞳と俺の瞳がすれ違う。暫く見つめあった後、片方の手をそっと下ろしていき尻のラインに沿ってズボンの中へ手を侵入させる。

「…なぁ、前と後ろどっち弄って欲しい?」
「う、ひッ、え…?」
「…ひくひくしてるし、後ろでいっか」

つう、と穴の周りを優しく撫で回すと筋肉の縮小が激しくなる。ひくひくひく、と何かを欲しているかのような動きを繰り返すので何度かなぞった後にゆっくり指先を埋め込んでみた。
するとずぶずぶずぶ、と驚く程容易く指を飲み込むもんだから…そりゃやりやすいし有難いことなのだが、思わず動きを止めてしまう。
なんで久々なはずなのにこんなに簡単に入るんだ。指を美味しそうに飲み込み内壁が脈打つなど、まるで最近誰かのものを受け入れたかのような…。
その結論に達した時、カアアアアと頭に血が上っていくのを感じた。全身の血液が流れに逆らいどんどん上っていき、自分では止められぬ程の勢いに眼光が開く。
…苗木、お前もしかして…。

「ッあう、ひなたくっ…」
「…なんでここ、こんなに柔らかいんだよ」
「ひゃあう!ッ、ひ、い、うあッ、あうッ」

おかしいだろう。久々の再会でここがこんなにも柔らかいだなんて。たまらず指先を乱暴に動かし中の壁をこすり、ぷっくりと膨れた前立腺を弄り回した。
優しげな手つきでもない動きに苗木は仰け反り唇を震わせ荒い息を吐く。きっととてつもない快感が今苗木を襲っているのだろうな。
愛らしい姿のはずなのに、この姿を他の人間にも見せたのかと思うと…どうしようもない憤りを感じ頭が冷めていってしまう。
お前のこんな姿を他のやつに見せるだなんて俺は絶対に嫌で、それを想像するだけで気分が悪い。
子供じみた独占欲が自分にもあるなんて思いもしなかったがもし苗木が俺が本命ではなくそいつが好きだと言っても大人しく引けるか分からないくらいの醜い感情。
指を三本に増やし緩みきったそこを激しく掻き回し、柔らかな感触を暫し堪能してからもう片方の手でズボンをずり下げる。

「…っ、」

なんだか無性に苛立つ。苗木、お前俺だけじゃなかったのかよ。奥歯を噛み締めそれでもそそり立つ自身のものを取り出し、苗木の穴にピタリと標準を合わせた。

「ひう、日向、くんっ…」
「…」

苗木の柔らかな声。自分が求めていた声。この声で誰かの名前を呼んでいたのだろうか。
…あぁ、考えただけで胸糞悪い。苗木の細い腰を掴みその苛立つをぶつけるかのように自身の猛ったものを中へと挿入した。

「はう――――ッ…!」

苗木の下顎ががくがくと揺れる。耐え切れず頬に涙と涎が流れ落ち快感に目が見開くのを視界の隅に捉えたがそんなことを気にせず腰を突き動かした。

「はッあああうッ、ひいあ、やうッ、やッ」
「ッは、挿れるときゅうきゅう締め付けてくるんだな」
「ひ、い、あう、う…ひゃあ、ひにゃ、たくッ…!」
「一体誰に弄って貰ったんだ?俺のこと、嫌いになったか?」
「っは、え、ひいあッな、で、そんな、うあ、こと…ッ」
「だってここ、久々なのに緩かったぞ。…誰に掘られた?狛枝か?十神か?」
「ひいッ、はふう…ッや、ッちが、ちがうよ日向く、ん!」
「何が、違うんだよ…!」

実際人差し指が何もせずとも入ってしまったんだぞ。最近会えなかったんだからこんな緩いはずがないじゃないか。
奥までパアン!と打ち込むとその度に苗木の太ももが快感で震え、声も抑えきれない程らしく常に唇を震わせ甲高い声を漏らす。
快感のせいでぐしゃぐしゃになった顔をなんとか両手で隠そうという動きもしていたが、今は耐えるためにシーツを握り「あっうああ」と呻きにも近い声をあげていた。
気持ちいいんだろうな。苗木に元々そういう性質があったのかそれとも俺が目覚めさせたのか分からないが本当によく乱れると思う。
そんな苗木を狙っている連中も少なくはないのだから常に油断は禁物。絶対に手放してたまるか、そう思っていたはずなのに。

「…俺だけだったのかよ」

自分だけが苗木に恋焦がれ、無性に求め、縋り付いて。惨めにも程がある。苦笑し寂しく思いながらそっと視線を落とせば、苗木の震える手が俺の腕を引っ掻く。
掴もうとしているのか何度か手を伸ばし、結果として引っ掻くで終わっている行動に一体何事だと見ていれば苗木の唇が言葉を放つ。

「誰にもッ、や、ふあッ、ひ、ほられッ、て、ない、ッんあ!」

…誰にも掘られてない?苗木の言葉を口の中で噛み締める。目は嘘をついているように見えない。しかし、事実緩かった。掘られていないのならその説明がつかないだろう。
前立腺をぐりゅううと潰しながら奥に突っ込みながら「嘘つかなくても…」と返すと、今度こそしっかりと腕を掴んできた苗木が恥ずかしそうに目を合わさず言った。

「っひあう!…だ、からッ…僕が、自分ッ…でぇッ…!」
「……え?」
「はあッひいん!僕が、じぶッ…ン!…やってた、の…!」

快感のせいか、はたまた羞恥のせいか。顔を真っ赤にし羞恥で目線を逸らす苗木は、確かに「自分でやった」と言った。
思わず腰の動きを止めその言葉を理解しようと数秒消費する。いや、そうせずともそのまんま裏表考えずに受け取ればいいのだ。
自分でやったということはつまりこの穴が緩かったのは、他の誰のせいでもない、苗木自身のせい、ということなのだろう。
数秒混乱が解けるまで考え続けようやく「…まじでか」と呟けば、苗木ははぁはぁと強い快感が止まったおかげで息を正そうと胸を上下させていた。

「な、んか…日向くん誤解してたみたいだけど…その、僕、誰ともやってない、から…」
「…尻の穴、自分で弄ってたのか?」
「ッ……そう、だよ…」

恥ずかしいのか苗木が両手で顔を覆う。こんなこと言いたくなかった、そうぼやいている声が両手の隙間から聞こえた。

「……なんだ」

しかし、そんなことはどうでもいい。俺はてっきり他の誰かにやられたせいで緩かったのだと思い込んでいたもんだからこの事実は予想外すぎてなんとも言えない。

「……あ、わ、悪かった。乱暴にしたりして」
「べ、別に大丈夫だよ…。その、き、きもちよか、った、し」
「…ほんとか?」
「……ん」

こくん。頷き一つ。それだけで全身に熱が戻ってきて苗木の中に挿れっぱなしだったそれがどくん!と脈打った。
苗木もそれは分かったらしく「ひぃあッ!」と甲高い声を出し握っていた手の力をぎゅうっと強めてきた。爪すらも食い込んできそうな力にそれほどの快感なのかと思いながら動きを再開させた。
今度は苗木のことを見つめ、唇と唇を重ね合わせ舌を巻き込み深いキスをしながら。お互いの唾液を交換しながら歯茎をそっと舐める。
苦しそうな苗木の声が聞こえたがそれを無視し口内を味わいながら腰も引いて押して引いて押してを繰り返した。
苗木がここを自分で弄っていた。あの苗木が、自分の手で。その姿を脳内で想像するとあっという間に絶頂はやってきてひときわ大きくなったそれが跳ね上がる。

「ッ、苗木、ごめん…!」
「え、あ、う、ひああ、奥ッやううううッ…!!!」

びゅるびゅるびゅる!と精液が飛び出すと、その熱さに苗木もイってしまったようで震えながらそそり立ったそこから白濁を吐き飛ばした。
吐き出たものが俺や苗木に飛び散るが、そんなことも気にしないくらい幸福感に満ちていて思わず苗木をぎゅっと抱きしめた。
お互い汗と精液の匂いでいっぱい。良い匂いだ、なんて感じてしまう俺は今感覚が麻痺しているのだろう。
倦怠感に身を預けながら俺はもう一度苗木に「ごめんな」と謝りの言葉を口にした。

「勘違いだったのか…ほんとごめん」
「…ん、別にいいって…ほんと」
「それにしてもなんで自分で弄ってたんだ?」
「っぶ!」
「そんなにここ、気持ちいいのか?」

まだ中に入っているそれをずるりと抜き出してみればそれだけで苗木は体を震わせ短い悲鳴をあげた。気持ちいいらしい。
俺は驚きで何度か瞬きを繰り返し、ふむ、と顎に手をあて考えた後苗木を見た。羞恥心で小さく縮こまっている苗木を。

「…苗木」
「…うん、なに?」
「苗木がここ弄ってるとこ、見てみた…」

そこまで言ったとき、苗木が枕を俺の顔面に投げつけた。柔らかい羽毛枕が顔に埋まる感触に「うぶ」と変なことを上げてしまえば「もう…!」と不機嫌そうな苗木の声が聞こえた。
どうやらご機嫌を損ねてしまったらしい。枕をどけながら残念そうな顔をしたが即座に「そんな顔してもだめ!」という苗木の声が飛んでくるものだから。
俺はとりあえず勘違いだったことにもう一度安堵しながら苗木をぎゅっと抱きしめた。あぁ、良かった。こいつが他の男のものになってしまったら俺は何をしでかすか分からなかったから、ただひたすらにこの勘違いに安堵し続けた。


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