愛より呼吸を選ぶ


【輪廻様リク/浮気相手狛枝/堕】





たくさんの資料が保管されているこの部屋は普段使われることがないので棚には埃が溜まっている。
窓も開けられることが滅多になくどこか古臭い匂いが鼻腔を擽る中、僕は唇を噛み締めその埃かぶった汚らしい棚に縋り付きぐるぐると巡る思考に酔いそうになっていた。
噛み締めた唇の隙間から出てくるものは熱い吐息で無音の部屋にはそれすらひどく響く。
手についた埃もどうにかしたいなあとは思ったものの、この背後にいる存在のせいで汚れを拭き取る余裕もなかった。

「ねえ苗木くん」

優しげな声と共に耳朶をぬるりと舐められ片目をピクリと揺らす。ざらりとした埃が汗ばんだ手に絡みつくのを不愉快に思いながら僕はそっと視線を背後へと向けた。

「…なに」

ぶっきらぼうな言い方になってしまったが言われた本人は大して気にするわけでもなく僕の耳朶を歯でかじったり甘い吐息を吹きかけたりしている。
用があったから呼んだのではないのか。夢中になって耳朶をはふはふと弄り続けている狛枝くんを横目で見ながら視線を床に落とす。
整理されていないこの部屋は床にも資料や本が無造作に置かれており少しでも動けば足が何かの資料を踏んでしまうところだった、危ない危ない。
内心ほっとしていれば狛枝くんの両手がそろりと服の上から胸板を揉み始めた。男なのだから当然何もないそこを両手でかきわけ微量な肉を集めるかのような動きを繰り返す。

「…ッ、女じゃないんだから、そこ揉んだって」

身をよじろぎその手から逃れようとしたが狛枝くんはやめることはなく、寧ろくすりと含み笑いを帯びたものを耳元に吹きかけてきた。
湿った空気につい眉間にしわを寄せて狛枝くんを睨むようにして見る。
いつもと変わらぬ笑みがそこにはありなんだか憎たらしくなったが、同時に服の上からぷっくりと膨れ上がった乳首をかりりと引っ掻かれ喉から小さな悲鳴を飛び出させてしまった。

「でも、乳首たってるね」
「…たって、ない」
「たってるよ。ほら」
「っひ、!」

僕の否定の言葉をどう思ったのか知らないが再び爪先を乳首に引っ掛けピンと弾けば、やはりそれなりに熱いものがくる。
顎を震わせ出してしまった声になんだか無性に恥ずかしくなり赤くなる顔を狛枝くんに見せないように逸らした。バクバクと心臓が騒がしい。
可愛いなあ、そんな言葉が聞こえたような気がしたがそれすら打ち消す程の心臓の鼓動はやはり緊張によるものなのか。

「あぁ…初めて僕の部屋以外でやるから緊張してる?」
「…」
「大丈夫だよ。リラックスして。いつも通り、君は恋人の姿でも想像してればいい」
「、っ」

何気ない狛枝くんの言葉。途端ゆったりとした熱に飲み込まれそうになっていた意識が引き戻される。
即座に頭に浮かんでしまったのは僕に対し笑みを浮かべ優しげな手つきをこちらに向ける愛しい人の姿。
暖かな日差しの中二人で散歩したあの帰り道のことを思い出してしまい、
目を見開き硬直する僕のことをチラリと見た後狛枝くんは手を止めるわけでもなくするりと下腹部に手を伸ばしていった。
彼の手の温度に慣れてしまったせいで鈍い快感がズボンを押し上げており、こんなときでも正直なそれになんだか泣きたくなった。

「触るね」
「…っふ、あ、」

狛枝くんがズボン越しにそこに触れた。泣きたいはずなのに抗うという選択肢など出てこず、僕は触れられた瞬間に走る快感に吐息を漏らすだけ。

「っひ、ひうっ…っはァ…」

ぞぞぞ…手のひらが幹の部分をなで上げ先っぽにたどり着くまで焦らすかのように円を描く。
生ぬるい温度がそこにあるというだけで意識してしまうのにそんな焦らし方されてはなおさら困る。
期待でどきどきとする一方、自身の愚かさに胃の中から何かが出てきてしまいそうなくらいの気持ち悪さを必死に飲み込んだ。
震える指先をぎゅっと丸め目を瞑り、カビ臭さを口に吸い込みながら深呼吸を数回。震えよ止まれ、吐き気よ止まれ、胸にくすぶるこの思いに僕は。

「…僕といるときに別のこと考えてるだなんて、妬いちゃうなぁ」
「ッひあう!!」

しかし考え事をしているのが狛枝くんは気に食わなかったようだ。いきなりズボンの中に手を突っ込んできて直に触れたかと思うとぎりりり!と力を込めてきた。

「こま、いたッ、ひいいい、いうッ、あううッ」
「痛い?あれ、でもこっちは萎えてないよ?痛いはずなのにおかしいね」
「ち、がぁっ…いうううッ、ひ、ああああ!」

ぎりり、締め付けられるそれの先端の穴に爪を立て刺激をし続ける狛枝くんの声音は低い。
きっと後ろを振り向けば機嫌悪そうな顔をした彼がいるんだろうな、そうは思うものの痛みの中に微かに感じる快楽に腰が勝手にびくびくと揺れ頬が熱くなっていく。
本来なら痛みに叫んでいいはずなのに散々彼の手に弄ばれた僕の体は、彼の温度に馴染んでしまっているようだ。
彼の手と認識しまっている以上襲い来るものは痛みより快楽。ずくんずくんと中心に向かっていく熱に背筋を震わせ汗をたらりと伝わせれば、背後で笑い声。

「あはは…、凄い」
「っひいい、あ、っふう、ひゃあん…、ッひ、い!」
「もう、可愛いなあ。僕の手そんなに好き?嬉しいよ、すっごく」

心底幸せそうな声音で狛枝くんはそう言ったかと思うと今度は手の力を緩め、先走りが漏れる先端に手のひらを滑らす。
ぬるり、嫌な感触が段々に広がっていくのを感じながら僕ははふはふと荒い吐息を棚に向かって吐きかけた。
全てがどうでも良くなってしまうような、ここで溺れてしまえばきっと今すぐラクになれるような、そんな感覚。
痺れる神経に為すすべもなく享受する僕に、狛枝くんはとうとうするりとズボンのぎゅっと握り下げ始めた。
ひんやりとした外気に下半身が晒されるのが嫌でも分かりそれでも抵抗という選択肢は湧いてこない。

「っはあ!」

ずぶぶぶ、お尻に一本指が入ってきた。先走りで濡らしてあったため圧迫感はあれど痛みはない。
握った拳を更に握り、その圧迫感に耐えていればずぶずぶとその指が肉の間をかき分けもっと中へ中へと侵入してきた。

「ひ、ふうう、あ、ああ…ッあああ!そ、こォッ…!」
「ここが好きなんだよね、苗木くんは」
「ひい…ふあんッ、あッ、ううう!」

中にある小さく膨れ上がったお馴染みの前立腺をすぐ見つけられ執拗にそこを指先で嬲り始める狛枝くんにもはや喘ぐしかない。
ぞくぞくと背筋に快感が走り涎さえもが口の中から溢れ出しそうになってしまう。それほどまでにこの前立腺という場所は僕にとってあまり触れられたくない場所なのだ。
自分が自分でなくなるウィークポイントと言おうか、今まさに快楽という刺激に留めていたはずのストッパーが一瞬にして消え去ってしまった。

「あうう、ッうんぁ!…あ、や、も、っとぉ…!」
「ん?」
「も、っとぉ…ぐりぐり、ってッ…はうん!」

先走りをぼたぼたと零すそれの通り体中が熱くて堪らない。
現実と一線ひいた現実味のない気持ちよさに顔を棚に押し付けたらりと涎を頬に伝わせれば、狛枝くんは指をもう一本増やしてきた。
そこまで開ききっていない内にいれられたため痛みもあったがそれすらも快感に変換されてしまい喉元を仰け反らせる。

「っはああ、あん!っひ、い」
「たくさんぐりぐりして弄ってあげるね、ここ」
「う、んん!っひ、い、っはうう!ッしょ、ふわあッ」

早急な手つき。焦っているかのような気配すら伺わせる手つきに一体どうしたのかと内心思ったが問う程の余裕はなくぶるりと背中を震わせる。
背後で狛枝くんがチラリと時計を確認し「もうそろそろかな」なんて呟きも聞こえなかった。
ただただこの快楽に浸り触られずともそそり立つその先端から泉のごとく湧き出る液体を視界に入れながら歪む視界でじわりと涙が滲むだけ。あぁ、気持ちいい。
きっとこのまま溶けてしまえればそれほど幸福なことなどないのだろうな。全てを忘れ耽美な世界に溺れ、現実との線引きをはっきりさせてしまえば、僕は。
何度か同じようなことを脳内で呟き繰り返し思考を停止させることなく巡らせてみた。その瞬間こそ自身が気づきたくない点を忘れられるたった一つの時間なのだと思う。

「さあ、そろそろ来るだろうし、いこうか」

ふと僕のお尻に狛枝くんの熱くて太いものが当てられる。
もう挿れるのか。まだ少ししかほぐしていないはずだが、と驚きで後ろを振り向く僕に彼は一つ笑みを零しもう一度時計にチラリと視線を走らせた。
時刻は夕方時。まだまだ余裕のある時間帯だと思うが、それに、そろそろ来る…?
色々頭の中で彼の行動や言動が引っかかりじわじわと嫌な予感が滲み出てきた。大抵、こういう時の彼の企みというのは確固たる意識の元で行われ最悪をもたらす場合が多い。
小さな違和感とはいえ無視できぬそれに僕は彼に問おうと思い口を開いた。

「…あの、狛枝くん。なんか、ッひいあああああん!」

だが、彼はそんな僕に構わず大きなそれをぶち込んできたのだ。ずぶずぶずぶ!と質量のあるものが狭い中を押し入っていく感触は何度やっても慣れぬものであって。
背中を逸らして高い声で悲鳴をあげその衝撃に耐える。涙の粒がぶわりと溢れて出てきた。

「っは、あ、う、あ…」

がくがくと足が震えずるりと倒れそうになる体をなんとか支える。中で脈打つそれはとても熱く存在感を発揮しており、いるだけで快感をもたらす。
これはやばい、荒い呼吸で狛枝くんに一言文句でも言ってやろうと後ろを向こうとしたが、すぐに狛枝くんは腰を降り始め奥に打ち込んできた。

「ッッああううう!っひ、いい…まっ、って、うあッ、やッ、ら、ああッ!」

奥まで来て息が詰まり、ずぞぞぞと引いていく感触に喉が引き攣る。それを何度もやられてしまえば延々と続く快楽地獄となる。
全身の力が抜けてしまいそうなくらいの快楽になんとか棚に縋り付きながら体を震わせていれば背後で狛枝くんが僕の体をぎゅっと抱きしめてきた。

「ッは、あ…気持ちいいよ、苗木くん」
「ひいやッやらうううッ、うあッひいい、い」

頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回され何も考えられなくなってしまう。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
カチカチと頭の中のネジを確実に取ってくるこの耽美な背徳は、もはや止められるものでもないのは自身でも充分分かっていた。
すぐ後ろに忍び寄る罪の影など快楽の前ではゴミクズ同然。


「ふぃっ、あああッ、はうッ、あッ、ひゃあ…ひい、きもち、い…んうッ!」


あとはもう、落ちるだけ。


「きもち、いッよぉッはああ、ひい…いあうッふにぃ、いううッ!」


大声で悶えると背後で狛枝くんも同じように頷いてそうだねと笑った。ぎゅうと抱きしめられると息もしにくいのだが、まるで愛し合っているかのような錯覚を覚える。
実際はそんな甘ったるい間柄ではなく本来こういう行為をする相手は別にいる、はず。なのに、今はその顔すら頭に思い浮かばない。
欲まみれでお互いを求め合うという関係が何故か愛おしく感じ抜け出せず僕は快楽を求めて腰を揺らめかせた。気持ちよすぎて、死んじゃいそう。

「っひ、む、ッあひ、いんッこま、えらくッん!」
「苗木くん、大好きだよ、愛してる、離したくない」
「ああッ、離さなッううあン!いでぇッ」
「本当に?そんなこと言われたら一生離さないよ」
「う、ン!離さなッて、いいッの、ッあ…う!」

ぐずぐずになった思考回路で必死に言う。それを聞いて狛枝くんは至極幸福そうな顔をして目を細めた。

「わあ、苗木くん僕嬉しいよ!」
「ひいん!あう、やッ、うッ、ああんッ…ふッ」
「ずっと好きだったんだ。僕だけの苗木くんでいてくれたら、って……そんなおこがましい願いを何度口にしたか」
「っはぁ…ひ、あ、ううああンッ、あううふッひ」
「実現すると思ってなかったよ。夢みたいだ。信じられない。だから、








―――――こんな僕になんて言ったか教えてくれないかい、日向くん」





瞬間。




息が、つまる。





「…、え」







今狛枝くんは、なんて、言っ、た。




快楽で沈んでいたはずの正常な思考回路が、たったそれだけの言葉で、一瞬にして熱を奪い去っていった。
代わりに鳥肌がたつ程の寒気。ぞわり、と快楽ではない何かが背中をゆっくりと這う。


震える体で僕はゆっくり首を動かし部屋の扉のところを見た。まさかとは思うが、と嫌な予感を纏わせて見た先には。



「…ひなたく、ッひいああああん!」
「聞こえたよね?日向くん」
「っちょ、ま、うううあッあッやうッひうッ」


呆然とこちらを見る恋人、日向くんの姿。


彼は目の前で何が行われているのかまったく理解できぬ様子で目を見開いたまま僕の姿を見続けている。
痛いくらいの視線だが、狛枝くんが遠慮なく腰を振るため喘ぎが止まらない。待って、違うんだ、色々言いたいことはあるのに口を開けば甲高い声のみ。
また荒くなる呼吸で僕は涙がぼろぼろと湧き出てくるのが自分でも分かった。

「…どういう、ことだよ」
「日向くん?どうしたの?」
「な、んで…お前と苗木が」
「それより聞いてた?さっき苗木くんがなんて言ったか」

やめてやめてやめてやめれくれそれ以上は本当に駄目なんだ狛枝くんもう、もう、もう。

「あふうッ、っひ、い、あああん!あ!」


どうしよう。僕、ほんとだめだ。


恋人に見つかって、やばいと思って、言い訳しなきゃって思っているはずなのに。なのに、なのに、なのに。



たまらなく、興奮している。



「ふに、いッ、ら、めえッあんんん!ん、んうッ、きも、ちいッ!」

隠すべきの背徳な時を目撃されるというのはどうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。
イイところを大きいもので剃られるより、最後イく瞬間より、今この時のほうが、なんていうか、とっても。

「あああもう、むりいッあひ、いッ、んんあ、いっちゃ、いっ、いっちゃう、あ、あ、あ」

あぁ、だめ、日向くんそんなに僕を見ないで。涙の潤む視界にいる日向くんは本当にショックと驚きで顔を真っ青にさせているが、そんな顔すらも今じゃ灰色に溶けていってしまう。
だって僕はもう背徳の味をしってしまったのだ。狛枝くんという存在を、体に刻みつけてしまった。
ごめんね日向くん。愛している、愛していたよ、それはもう心の底から。
だけど狛枝くんには体ごと奪われてしまったんだ。きっとこれはもう抜け出せない。痙攣する体を抱きしめひたすら襲い来る快楽に耐え続けていたがそれも限界がやってきたようだ。
びくんびくん!勝手に揺れる体に合わせるようにそそり勃ったそれがどくりと跳ね上がり勢いよく白濁を飛ばした。


「あ、う、い、く、ああ、あああッ、あうううう――――…ッ」



…あぁ…いっちゃ、た…。



日向くんがいる方へと飛んでいく白濁を見て世界が歪んでいく。もう後戻りは出来ぬのだと言うかのように耳元では狛枝くんが笑っていた。それだけで再び熱を持ち始めるそれはもうすでに末期なのだと。



「…、苗木…どうして」



絶望すら匂わせるその顔に僕は小さく微笑んだ。ごめんね。



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輪廻様すみません堕ちてるのかこれはオチきれているのか?!?!

色々失敗しました、考えていたものがそのまま書けずひえええ!眠気もある!ので手入れしますこれは(;o;)!!!


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