共犯者


男の体なんて触って弄って何が楽しいんだろう。狛枝くんが僕の脇腹に手を這わすのを見てぼんやりと思った。
触るのならば柔らかくて良い匂いのする女の子の方が楽しいだろうし、僕もそうだ。男なんかにべたべた触って嬉しいわけもない。
骨ばった体はとてもじゃないが女の子の柔らかな肉体とは程遠く、筋肉もそこまでついていない体は貧相。人の目前に晒すには少し恥ずかしい。

「苗木くん」

それなのに狛枝くんは幸福そうに僕の体に手を滑らすのだ。つう、と脇腹から段々に下がっていく手はきっとあそこを狙っているのだろう。
焦らすような感覚に身をよじり僕も彼の名前を呼んだ。狛枝くん。暗い室内にはその音はひどく反響するようで大して大きな声でもないのに耳に残る。

「ねぇ、触ってもいい?ここ」
「…す、好きにすれば」
「ダメなの?ダメかな?ここをいっぱい虐めてあげたいんだけど、ダメかな?」
「っ」

意図的なのかなんなのか。僕の口から言わせようとする狛枝くんの顔は薄暗くよく見えないが懇願するようにも見える。
別に触ればいいじゃないか。いちいち許可をもらおうとしないで欲しい。だが彼のことだ。言わなければ触ってくれないのだろう。
ずるい。肌に手を這わしてゆったりとした快感を呼び覚ましたのは狛枝くんだというのに、ここで拒否するわけもないのに。
たくさん彼への文句は思いついたが、早く触って欲しい僕は目を閉じ彼の顔を見ないように願いを言葉に出す。

「い、いいから」
「いいからってどういうこと?やっぱり触っちゃだめなんだね、そうだよね、汚らしい手に触れられたくないよね」
「ちがっ……さ、触って、欲し、い」

途切れ途切れ、こんなことを言うはめになるだなんて。ぐわあああと顔面に熱がこもっていくがこの暗闇の中では見えないだろう。良かった、それだけがただ一つの救いである。
一方狛枝くんは僕の言葉を聞いて嬉しそうな声音で「ほんと?ありがとう」とお礼を言ってきた。何故お礼を言ったのか。寧ろ触って欲しいのは僕の方なのに。
もやもやとする中狛枝くんが僕のズボンの中に手を入れてきてゆるやかに勃ちかけていたそれに直接触れた。ビクン、肩が揺れる。

「っは、う、あ」
「たくさん弄ってあげる」
「ッひぃ、あッ」

根元から先端にかけてシュッシュッと激しく擦り上げ、時折カリを親指でなぞりその度に鈍い快感が腰をびくつかせる。
はッ、はッ、はッ、荒い息になりながら狛枝くんにしがみついた。きっと今の僕はひどくだらしない顔をしているのだろう。その顔が見られるのがたまらなく嫌なのだが暗闇で助かった。
安心して狛枝くんにしがみつくことが出来る、ぎゅうう、と。

「もっと声聞かせて。ここ、好きだよね」
「ッあうう、んッやうッ」

尿道にも爪をたてられビクビクビク!と強烈な快感に甲高い声が止められない。ああ、きもちいい。生理的に溢れ出てくる涙さえにも過敏になってしまい、っは、と息を吐く。
男同士でもこうして気持ちいいということは得られる。それが最近僕が知ったこと。こんな世界があるだなんて、少し前の僕は本当に無知で純潔だった。
その純潔を汚したのは勿論この狛枝くんで、言葉巧みに騙されヤられてしまったのがそもそもの始まり。
彼は僕のこの姿を見て興奮するらしいが、どこに興奮する要素などあるのだろうか。まあ狛枝くんは人よりずれている部分があるから理解など出来ないかもしれない。
・・・だけど、ちょっとだけ分かるかも。目の前で荒い呼吸を繰り返す狛枝くんの顔が暗闇にぼんやりとうつる。
見ているだけで自分も快感を感じる、前にそんなことを言っていたが。

(…僕ばっか)

なんとなく申し訳ない気分になった。自分ばかりが快感に喘ぎ狛枝くんはただしているだけなんて。
彼はそれで満足かもしれないが、僕としては嫌だ。自分同様気持ちよくなって欲しい、とか、思っちゃったり、する。

(…なんか、狛枝くんに毒されてきたかな)

狛枝くんに対しまさかこんな風に思う日が来るなどとは。そんな自分に苦笑しながらその思いを実行するべく、そろりと彼のズボンに手を這わした。

「苗木くん?」
「あッ、う、こま、えだくん、も、一緒に…」

ズボンを開け、中に手を滑り込ませる。狛枝くんは焦ったように「苗木くん?!」なんて言っているが、そんな声は無視して彼のそれに触れれば、あぁ。
既に熱くなり勃っているそれがあった。もうこんなにしてたのか、多少の驚きはあれどすぐに狛枝くんと同じように太い幹に擦り始めた。

「な、苗木くんだめだよ、汚い」
「っは、ぅ、汚くなんか、な、いッ…」

熱い。手のひらに感じる温度になんだか酔ってしまいそうだ。そのまま根元から先端までしごき、浮き上がった筋にも指先を引っ掛ける。
するとそれが気持ちいいのか狛枝くんは少しずつ声を漏らしだした。

「っは、苗木くん」
「ひ、ふわぁッ、んッ狛枝、くっ」
「あああ、こんな幸運いいのかな!もう嬉しすぎて死んでしまいたいくらいだよ!」

ハァハァハァと荒い呼吸はなんだか別の意味で出してそうだ。耳元に呼吸がかかり、びくん、と揺れる。ぞくぞくとしたものが背筋から中心へと集まっていく、きっとそろそろ限界。
僕は夢中になって狛枝くんのそれに手を這わした。いつもの仕返し、というのもある。
今まで散々やられっぱなしだったのだ。今日くらいは少しやり返してやりたい、そんな思いで幹をしごき、溢れ出てくる液体に指先を絡め時折尿道を優しく撫でる。
僕はこうされると気持ちいいのだが狛枝くんはどうだろうか。ちらりと彼の様子を伺えば満更でもなさそう、段々吐息に余裕がなくなってくる。

「ッ、ひ、!」

だが狛枝くんもやられっぱなしではなかった。僕の尿道をぐりぐりぐり!と強く抉り、その上膝小僧でぐっと押してきたのだ。
突然の快感の倍増に喉を引きつらせ目を見開けば、目の前でくすりと狛枝くんが笑った気がした。

「ちょっ、こまえ、あうッ、あ、ぐッ、ふゆッ」
「可愛い…ああ、このあと訪れる不幸は一体どんなもの、ッ、なんだろうね」

ぞくぞくぞくう!耳元で囁くのは卑怯だ。脳髄から甘い痺れが全身に伝わり、はくはくと飛び出る息は抑えきれない。
お互いに向き合ってそれぞれの性器を擦り合うというのはどうしてこんなにもイケナイことをしている気分になるのか。
こっそり部屋で二人して、今までは一方的にヤられていた僕だが今は違う。今は自らは進んでやっている。
このイケナイ関係に、僕も手を出してしまったのだ。ああ、もう言い訳は出来ない。襲い来る快感にそっと微笑み、目の前にいる狛枝くんの耳元で囁いた。


「…す、」


たった二文字の言葉が言えない。少女漫画でありがちな話。その時は何も思わなかったが、こういう関係になってからこそ分かるとは。

恋人、とも違う。友達、でもない。愛を囁くのはいつだって狛枝くん。僕はそれ以上何も踏み出すことが出来なかった弱虫。

だから今日くらいはこの熱に酔ったフリして言ってみても、いいかな。そんな気になってしまってこの暗闇の中きっと狛枝くんにしか聞こえないだろう程の音量で、囁いてみた。そしたら。

「…ッ」
「は、ひゃッ、ああッあッ、うやッ、ぅう、はぁうッ」

狛枝くんが手のスピードを上げ激しくスライドさせてきたのだ。じゅぶじゅぶと先走りと混ぜ合わせ泡立ってしまうんではないかと思うくらい激しく激しく。
どうしようもない快感に足をぶるぶる震わせ閉じ切れない口から涎が滴り落ちる。ぐるぐると巡る熱には抗うことなど出来ず、首筋につうと汗も出てきた。

「あううッ、ひ、ッ、こま、ら、ッく、ふううッあうッ」
「は、あ…いいよ、すっごく。一緒にイこうか」
「やうッかりかり、しちゃ…う、あうッひい!

快感に震えながらも狛枝くんのそれをしごく手は止めない。頑張って追いつくように必死に手を動かし、ぐりりと先端をほじる。
狛枝くんは僕の鼻先にちゅっとキスを落としながら何度も愛おしそうな声音で僕の名前を呼ぶもんだから、余計に体が熱くなってきた。
きっとこの人は僕から愛が返ってくることなど期待していないのだろう。自分さえ愛しい気持ちを持っていれば十分な人だ。
そんなのって普通は悲しくなるのに、やっぱり狛枝くんは変わってる。もうイきそうで呼吸も苦しいはずなのに頭の片隅では冷静にそんなことを考えていた。

「い、ッく、やば、びくびく、って、ひ…あうッあううう――――ッ」
「ッ、う、僕も、イくよ…う…!」



そうして僕たち二人は一緒に白濁を飛ばしイった。


頭の中が真っ白になるくらいの快感で喉の奥から出てくる声は自分のじゃないようで。
一緒にイったのなんて初めてだったから少しだけ満ち足りた気分。倒れこむようにベットに二人で沈み、ぼける視界で互いに微笑みあった。


「苗木くん、大好き、大好き大好き大好き大好き」
「…そ、っか」


そしてひたすら愛を囁く狛枝くんには悪いが、熱が覚めてしまった以上素直に自分も好きといえるわけもなく。

赤くなる顔を自覚しながらぎゅっと彼に抱きついた。うん、好き。


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